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2017.07.12掲載
■インタヴュアー:北村 和明(IAUD情報交流センター長/株式会社岡村製作所)
■日時:2016年12月10日 18:15~
―パドミニさんは、もう日本へは留学で2回、都合2年間お住まいになられているとお聞きしていますが、そのときの日本の印象はどうでしたか?
パドミニ・トラット・バララム(以下 パドミニ):私は1992年に初めて来日して富山で工芸のワークショップに参加、ワークショップの後日本を旅行し1カ月間日本の藍を見て回りました。1995年から96年には「日本の藍とその利用―インドとの比較調査」という研究で日本財団のフェローシップを得ました。その時は日本民藝館に所属し、その間東京、沖縄、徳島、奈良に滞在しています。
2000年にはインドのイカットについて講演するため講師として招かれ、インドのイカットの織り手とパトラの手織り機と一緒に来日し、沖縄の南風原文化センターの「アジア絣(イカット)ロードまつり」でパトラ(インドのグジャラート州のイカット)の機織りの実演を企画しました。
そして2006年に再び日本に参りました。大阪の茨木市に住み、日本財団から国際交流に関する支援を得て「インドから日本への織物の道と日本の織物への影響」という研究をしました。その時は国立民族博物館(民博)に客員研究員として所属し、京都で行われた国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)の国際会議に初めて出席しました。日本には大変良い印象を持っています。私にとって第二の故郷のような所です。他の国ではこんな気持ちは抱きません。日本人はとても優しく親切です。それにどこへ行くにも便利ですね。迷うことは一切ありません。鉄道の駅とバス停にはとても優れた標識のシステムがあり、電車もバスも時間通りに動いています。誰かに道を尋ねると、教えてくれるだけでなく、私が迷うかもしれないと思えば一緒に付いてきてくれることもあるんですよ! 日本の友人たちは家に招いてくれたのみならず、家に泊まるよう誘ってくれることもありました。それで日本の文化への理解を少し深めることができました。ですから日本にはとても良い印象を抱いています。インドやそれ以外の国にいるときも、日本人を見かけると日本語で話しかけます。大学で働いているのですが、ノーベル賞受賞者のラビンドラナート・タゴールが設立した大学で、彼はちょうど100年前に日本を訪れているんです! タゴールはこの大学に日本語学科を開設し、日本から先生を連れてきました。日本語学科のおかげで私は自分の大学でたくさんの日本人に会い、日本の会議にも出席しています。日本人の友人がたくさんいて、日本に住んでいる人もインドにやって来る人もいます。
―あと、フィールドサーベイで日本全国を回られているとお聞きしていますが、そういう時にユニヴァーサルデザインの面で困った事や感心した事はありますか?
パドミニ:はい、たくさんありました。例えば日本の交通信号は視覚に障害のある人向けに音を出しますよね。この音は青信号と赤信号とで異なり、目の見えない人にも健常者にも役立つため実に感心します。音は横断歩道にたどり着く前から聞こえます。歩道の真ん中には点字ブロックも配置され、視覚障害者が真っ直ぐ歩けるよう導き、歩道が終わるあたりには3つのブロックを水平に置いてそれを知らせています。点字ブロックがあると、車椅子が歩道の片側寄りを通る場合は進むのが難しいかもしれません。そのため車椅子を利用する人にとって不便にならないよう、点字ブロックは歩道のちょうど真ん中に配置され、歩道の点字ブロックの両脇にある平らなタイルに車輪が触れるようになっています。このようなユニヴァーサルデザインの思考と実践にはとても感銘を受けます。ただこの黄色の点字ブロックは、一般の人にとっては旅行の際に地下鉄の駅やバス停まで車輪付きの荷物を引いていくときに厄介です。点字ブロックによって車輪がスムーズに回りにくくなりますからね。
―何気なく置いたものが目の見えない方たちにとって障害となるわけですね。そういう日本で感じられたユニヴァーサルデザインに関する面とインドでのユニヴァーサルデザインの考え方・普及の具合を教えて欲しいです。
パドミニ:日本ではユニヴァーサルデザインが非常に進んでいます。会議やワークショップが開催され、学生にもユニヴァーサルデザインが教えられています。インドではバララムさんが2005年に初めてDJデザインアカデミーで通常の必修コースとしてユニヴァーサルデザインを導入しました。これがインドにおけるユニヴァーサルデザイン教育の始まりです。2011年にはバララムさんはインドの思考力のあるデザイナー数人と、インドの状況に合った「インドユニヴァーサルデザイン原則(UDIP)」という重要な文書を作成しました。またDJデザインアカデミーの学長として、2015年3月にブリティッシュカウンシルと共同でインド初のユニヴァーサルデザイン会議を開催しています。会議の最後に行った宣言はインド政府に送られ、今始まろうとしている「Sugamya Bharat Abhiyan」(アクセシブルインドキャンペーン)に役立ちました。これは政府が「ユニヴァーサルデザイン原則」を用い、選ばれたインドの50都市で公共の建物を障害者にとってアクセシブルなものにすることを目指すというものです。このような努力に対して2015年、DJデザインアカデミーにはIAUDからUD教育分野で大賞が贈られました。
それから彼はインド国立デザイン大学院(NID)、ナーシクの建築大学デザインセンターなどでもユニヴァーサルデザインのワークショップを実施し、講座を持っています。2016年にはNIDで実施したユニヴァーサルデザイン選択科目で、ユニヴァーサルデザイン対応の鉄道駅の例として、UDの原則を基にバンガロール駅のデザインについて学生に教え、指導しました。
日本ではさまざまな分野の多数の企業が協力して事業を行いますが、インドではそのような事業慣行は実施されていませんでした。
シンガナパリ・バララム:インドではユニヴァーサルデザインの教育は始まったばかりです。国は公共建築にユニヴァーサルデザインを導入するため50の都市を指定しました。これらの都市はユニヴァーサルデザインを包括的に実現することを目的に、選ばれたインドの歴史的記念物でアクセシビリティーの推進活動を始めたところです。また、鉄道の駅にユニヴァーサルデザインを導入するプロジェクトもあります。インドでは電車による移動が一番安上がりで、乗客と列車の数は世界最大です。ですから私たちインドのデザイナーは電車と駅のプラットホームに関するアクセシビリティーに取り組んでいます。
それからデザイン学校で実施してきたワークショップと研究に基づいて国に提案も行っていますが、すべての提案が実現しているわけではありません。ですから今後は国と協力して実現段階に移行していくでしょう。
電車には障害を持つ人用に割り当てられたコンパートメントを備えたものがありますが、このコンパートメントは実際にはまったく使われていません。というのも列車とプラットホームの間が非常に広く、車椅子の利用者は言うまでもなく、特に視覚障害者や高齢者、妊婦が落ちる可能性があるんです。電車の床とプラットホームの高さも違います。ですから車椅子の人は電車に乗り降りできないと言います。日本では車椅子の人が電車に乗るのを車掌さんが手伝っています。インドではないことです。おまけに、車椅子の人は家族が付き添っていない場合しかこの特別に割り当てられた(デザインはされていません)コンパートメントに乗ることが認められておらず、それでは結局実際の役に立ちません。障害者専用のコンパートメントは、必然的に鉄道会社の職員が占拠しています。誰かが理由を尋ねると、障害者が誰も使っていないから使っているのだという答えが返ってきます(笑)
―今回の展示会はご覧になりましたか?
パドミニ:今日の会議で私は2つ、バララムさんは1つ講演があったため、展示会を全部見る時間はありませんでしたが、昨日半分見ました。残りは明日見ると思います。それでも良い製品をたくさん見つけました。パナソニックのブースとアサイハウスのブース、車椅子利用者のための更衣室をくまなく、それからたくさんの小型の製品を見ました。展示会の開催は良い活動ですね。実際の製品を見れば機能と仕組みを理解しやすくなります。サイトセッションにも素晴らしいものがありました。セッションは推進者によって非常に違っていました。
―サイトセッションの方も、色々もっと良くなるように私どもも努力していきたいと思います。
シンガナパリ・バララム:展示会で個人的に感心したのは、会場に展示されていた100パーセント竹のナプキンです。小さいながら質の高いものでした。特に気に入ったのは積水の調節可能なトイレで、利用者の身長に合わせて高さを変更できます。車椅子の人に合わせて低くすることもできるでしょう。このように特殊な機能を備えた製品が多数展示されており、非常に感心しています。それから高さを調節でき、体に障害がある人にもそうでない人にも適したテーブルと椅子を見つけました。
―2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、それに向けて何かアドバイスやユニヴァーサルデザインの面でこうした方がいいというようなご意見とかあれば教えていただけますか?
シンガナパリ・バララム:私はパラリンピックとオリンピックを別々に組織するよりむしろ、視覚に障害がある人とない人、車椅子の人とそうでない人が一緒に参加できるオリンピックを見ることができたらと思っています。しかし2020年のオリンピックとパラリンピックに向けて何ができるかということになると、2つの従来別々だったイベントをひとつに統合するのが理想的です。そのように大会を統合することで、障害者と健常者に真の喜びをもたらし、社会の真の統合というユニヴァーサルデザインを促進できるというのが私の考えです。障害のない人と障害のある人が一緒に競技すれば、その中で一体感が生まれます。例えば健常者からのサポートがあれば、手のない人も食事をすることができ、視覚障害者もどこへでも旅行することができます。サポートがなければ障害者がすべて自分たちではできないことでも成し遂げられます。食事と旅行の両方に当てはまることは、スポーツにも当てはまるかもしれません。私の意見ではこれは非常に重要です。インドではいくつかのボランティア団体がこういったことを試しており、とてもうまくいっています。障害者と健常者の両方が互いに楽しめます。私が思うに、これこそが本当のユニヴァーサルデザインです。
実際、すべての選手(健常者も障害者も)が同じレベルで競い、判定基準が同じであれば、公平にならないかもしれません。ですから必然的に評価と判定の基準を変更して公平にする必要があるでしょう。
賞を受賞したインド映画『ラガーン』には、インドチームとイギリスチームがクリケットの試合をするシーンがあります。インドチームのメンバーの1人には障害があり、腕をしっかり上げることができません。チームはこの障害を持つ人物を健常者にとっては難しいスピナーの達人として活かし、この短所をうまく長所に変えました。それがインドチームを敵の強豪チームに対する勝利に導いたのです。この例のように多くの障害は必ずしも欠点ではなく、潜在的な利点かもしれません。
もうひとつの例は電話交換手の仕事です。視覚に障害のある人は集中力が高いため、視覚に障害がない人よりも良いサービスを提供できる可能性があります。これが視覚障害者自身とそのより豊かな能力への認識を高め、自信が強まり、同時にサービスの質の向上にもつながります。特に聴覚(音源)に関する事柄は視覚障害者が優位に立ちます。ですから妨げと思われることが仕事に良い貢献をする可能性があるという思考を、人々に促すことが必要です。
2020年、健常者のオリンピックと障害者のパラリンピックの統合が初めて日本で実現すれば素晴らしいですね。
―本日は、貴重な時間をいただき、ありがとうございました。
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