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【グローバルインタヴュー2016】2020年は日本とIAUDにとってユニヴァーサルデザインへの意識を高めるターニングポイントになると期待しています

2017.06.19掲載

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写真:レイナー・ウェスラー氏

レイナー・ウェスラー

フロッグデザイン社 副社長・アジア局長:米国

■インタヴュアー:北村 和明(IAUD情報交流センター長/株式会社岡村製作所)
■日時:2016年12月9日 18:10~

プロフィール



―本日は、お時間をいただきありがとうございます。


レイナー・ウェスラー(以下 ウェスラー):こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。



―早速ですが、日本や名古屋にいらして、印象はどうですか?


ウェスラー:私は7年前に上海のスタジオでフロッグ社のクリエイティブチームを率いるようになりました。最近の仕事の中心はアジア地域だったため、日本には市場として馴染みがあります。美しく、デザインが素晴らしい国ですね。
名古屋に来るのはこれが初めてですが、工業都市ということでとても興奮しています。中国を拠点としているため急速な発展を目の当たりにしてきましたが、それは常に製造業に付随していますので、日本でどう比較できるか見てみたいと思っています。



―本日、講演もしていただきましたが、この会議の印象はいかがでしょうか?


ウェスラー:まず何より、この会議に世界中から実に多数の著名人が参加していることに非常に感心しました。スポンサーも素晴らしい企業ばかりです。日本は世界のどこよりも急速に高齢化が進んでいるため、今回は日本の皆さんのためになるようユニヴァーサルデザインを利用する良い機会です。

また瑶子女王殿下のご臨席により、会議の価値と重要性が非常に高まりました。それから参加者がさまざまな年齢層を代表していることに気づきました。多様な年齢層のデザイナーと他の分野の専門家ならびに専門的見地が一堂に会することで、会議に多様性がもたらされ、参加者全員にとって興味深い経験となっています。



―ありがとうございます。次の質問ですけど、デザイン会社としてやはり色々なお客様とお付き合いする事があると思いますが、そのユニヴァーサルデザインの面でお客様の要望やデザインしていく上で気をつけている事があれば教えてください。


ウェスラー:当社のクライアントの事業区分は多様化しています。例えば現在のトレンドは「コネクテッド介護」です。私は国土が小さく人口の多い国で育ち、故郷では介護をする側とされる側のバランスがうまく取れていました。介護をする側とされる側は同じ場所にいて、例えば私の両親は私の祖父母の面倒を見ていました。しかし家族がどんどん離れて暮らすようになり、人々の寿命が延びるにつれ、別の形で介護が提供されるようになっています。人は自立しなければなりません。相互依存型の介護よりも、遠隔ケアと高度な社会的ケアが求められています。
現在中国では人口構造が逆ピラミッド型で、これは数年間続くと予想されます。そのため介護と被介護者について新しい概念が必要だと感じていますが、似たような混乱は多くの業界のクライアントにも見られ、事業を多角化して状況の変化に対応しようとしています。

もう一つ目にしている変化は、クライアントが顧客志向のデザインや変化と革新のためのデザインという特定目的向けの特別なデザインとは対照的なものを求める傾向があることです。つまりクライアントが革新的な物の創造だけでなく、もっと広い意味で革新と変化を求めているということです。実際この傾向はオーストラリアとシンガポールで始まっており、現在北米と中国でも見られるようになっています。

もう一つの傾向はサイレントコンピューティングです。例えば現在コンピューターはスマートフォンや携帯電話に取って代わられつつあると認識されていますが、フロッグ社では将来、家と車がコンピューターとして使われるだろうと予測しています。現在既に車を車輪の付いたコンピューターとして見ています。つまり家と車が周囲を取り巻く環境の中でパターンを検知し、行動や習慣を割り出して、次に何をすべきかアドバイスするのです。これはもう始まっています。サーモスタット(温度調節器)などの日常的な物に代わる、ライフスタイルにとっての支援や補助となるような新しいシステムの開発が続けられるでしょう。
例えば私たちが毎朝7時に起き、コーヒーを淹れて飲み、お風呂に入るといった情報をテクノロジーが検知することが可能です。将来のソフトウエア技術は、その情報と健康や衛生状態についての追加情報を基に私たちについて多くのことを推測し、理解できるようになるでしょう。それによって健康増進のために日々の生活で変えられる点をテクノロジーが勧めてくれるようになります。このようなお勧めに従わないと決めたとしても、少なくとも何時にお風呂に入り、適切な温度でお湯を出すつもりかをテクノロジーは把握するでしょう。しかし技術は単純な作業の役に立つだけでなく、そのずっと先に進んで、すぐには明らかにならないような健康についての情報を実際に予測することが可能です。

レイナー・ウェスラー

一つ例を挙げると、西洋では誰もが知っている小説家のアガサ・クリスティーは、70年間執筆活動を行いました。その作品はとてもユニークです。あるカナダの言語学者でソフトウエアのプログラマーでもあった男性が、アルゴリズムを使って彼女の作品を分析しました。特に調査したのは、著作の中で使われた言葉の多様性、カテゴリー、使用頻度、それから曖昧さでした。分かったのは年齢が62歳頃になったとき、言葉の多様性が減り、曖昧さが増したことです。このような変化が作品の中で起こっても本は売れ続けましたが、調査を実施した言語学者によると、調査結果からクリスティーがアルツハイマー病か認知症を患っていた可能性があると思われるそうです。
ですから、人間の行動を自宅やオフィスなど周囲の環境が検知し、アガサ・クリスティーが自身の著作の中で経験したような日々の癖の変化を認識できれば、こうした環境が私たちの健康状態を見分けられる可能性があります。今後はこのようなシステムが開発されるでしょう。私はこの話をよく例として使うのですが、この例のポイントは、データの共有や収集から予期せぬ結論が導き出されるかもしれないということです。



―人間や家の状態を、ソフト化でカバーできるというのは素晴らしいと思いました。


ウェスラー:おっしゃるとおり。あり得ます。確かに、私たちがどう製品や技術を利用するかによって、異なる情報が得られることもあるでしょう。1つのデバイスだけでは意義ある洞察を得ることはできないかもしれませんが、数が増えればそうなるかもしれません。まだマスマーケットではこういった家は見られませんが、もう間もなく登場すると思います。



―次を最後の質問にさせていただきます。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、私どもの組織や日本について「こうした方がいい」など期待がありましたら、教えてください。


ウェスラー:まずは日本がオリンピックの開催地に選ばれたことにお祝いを申し上げます。ユニヴァーサルデザインを普及し、推進する良い機会になりますから素晴らしいことです。別の見方から言えば、日本とIAUDがこの機会を捉え、自らにプレッシャーをかけてユニヴァーサルデザインの推進に一層力を入れることを期待しています。

同時に、これによってユニヴァーサルデザインがより目に見える形で人々に普及するでしょう。ひとつ期待しているのは、デザインが製品やサービスに使われるだけでなく、それ以上に製品同士のやり取りを促進するものとなり、人々にデザインについて考え、デザインに目を向けるよう促すことです。通常デザインはデザイナーだけが行いますが、社会全体がデザインを意識するようになれば社会はもっと良くなるでしょう。
もちろんオリンピックの前と後に日本を訪れ、自分の目で日本の変化を確認するつもりです。

私の意見と考えについてお話しできて良かったです。このような機会をいただきありがとうございます。



―本日は本当にありがとうございました。

フロッグデザイン社Webサイト: https://www.frogdesign.com/



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