IAUD第6次中期活動計画
1. 基本事項
(1)IAUD理念
ユニヴァーサルデザイン(UD)のさらなる普及と実現を通して、社会の健全な発展に貢献するとともに、日本発のUDを広く世界に発信し、みんなが平和に快適に暮らせる社会を目指します。
(2)IAUDヴィジョン
IAUDは、民族、文化、慣習、宗教、国籍、性別、年齢、能力等の違いによって、生活に不便さを感じること無く、“一人でも多くの人が安心して快適に暮らせる社会づくり”を目指します。そのために、以下の3つの視点で活動します。
- 社会全体のUD基盤整備
- 企業活動における人権意識の向上、及びそれに基づくUD製品・サーヴィスの提供
- 生活者のためのUD風土の醸成
2. IAUD第6次中期活動計画
IAUD第6次中期活動計画は、2019年度に策定した第5次中期活動計画を振返ると共に更なる成長、発展を目指した今後4年間(2023年4月~2027年3月)の活動指針とします。
国連が提唱する2030年までの持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)に至るロードマップや、2025年大阪・関西万博以後の新たなランドマークをどのように策定するか、「一人ひとりの人間性を尊重した安全・安心な社会環境づくり」を目指すIAUDとしては、引き続き本邦および海外におけるUDの普及と実現を目指しつつ、さらにプレゼンスを高めて行くために、なお一層の奮闘・努力が期待されています。
(1) 第5次中期活動計画の振り返り
2019年12月に中国・武漢市で報告された原因不明の肺炎は、後に「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)と名付けられ、世界中に感染が拡大し多くの人々の生命・健康に甚大な被害を与えました。さらに、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナ国民を恐怖と不安に陥れただけでなく、世界経済や国際秩序にも悪影響を及ぼし、日本においても国民の生命や財産を守るための安全保障や国防の概念に見直しがなされています。
この3年余り、疫病と戦争の二つの脅威が国際社会を翻弄し、多くの人命の喪失や人権の侵害を起こし、そして人々の社会生活基盤を根底から揺るがす事態となりました。これは即ちIAUDがヴィジョンとして掲げるユニヴァーサルデザイン社会の実現を阻む大きな障害でもあり、これらの脅威に今後どのように対応していくのかという難問に直面していると言えます。
このような認識のもと、第6次中期活動計画策定に際し、第5次中期活動計画(2019年4月~2023年3月)の達成状況の評価を行いました。その結果、
- 「社会全体のUD基盤整備」については、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、ユニバーサルデザイン2020行動計画が策定され、公共施設等のユニバーサルデザイン化を大会以降のレガシーとして残していくことが政府方針として示されるなど、IAUDの働きかけが一定の役割を果たしたことで、着実にUD基盤整備が進みつつあると考えます。
ただ、「COVID-19」の全世界的な拡大(パンデミック)やウクライナ戦争で露わになった安全保障や国防に関する概念をも、いわば広義のUDとして再認識し、社会全体の基盤整備に落とし込んでいかねばならない新たな段階に来ていると考えます。 - 「企業・団体によるUD製品・サーヴィスの提供」においては、電機、自動車、住宅設備等の製造業を中心に多くの具体的な開発成果が生み出されており、そのクオリティも年々向上しています。これには、IAUD国際デザイン賞での受賞・表彰も少なからず貢献していると思われ、次第に大企業から中小企業へ、またサーヴィス業や金融・保険業などの第三次産業へも普及が拡大していることがうかがえます。しかし、一部の企業では、ユニヴァーサルデザイン(UD)は既に使い古され新鮮味がないといった誤った認識からか、製品やサーヴィスの開発に鈍化傾向が見られます。また、取引先やサプライチェーンでの人権侵害を理由に国際的な取引停止などの制裁を受ける企業も出るなど、経済界にはかなりの動揺と混乱も見られるようです。そもそも人権擁護や人間性の尊重はUDの根底にある基本概念であり、理念レベルでのUDの理解がなされていれば防ぐことができた事案かと考えます。その意味でも、UDに対する誤った認識を払拭し本質的な理解とそれに基づく規範のある行動を促すべく、改めて産業界全体に働きかけていく必要があります。
- 「生活者のためのUD風土の醸成」については、「ユニバーサル社会実現推進法」や「改正障害者差別解消法」の成立で、徐々に一般の生活者にもUDの考え方や意義への理解が広がってきたといえます。LGBTの理解、及び障害者や女性の社会進出に関する考え方では、むしろ、生活者側の認識レベルの向上に、国や経済界が追いついていない現状があり、これらの改善に向けて生活者との一層の連携が期待されています。
(2)活動方針—IAUDにおける新たな成長計画—
第6次中期活動計画については、第5次中期活動計画の達成状況を踏まえ、IAUD理念、ヴィジョンを達成するための新たな成長計画として、引き続き、以下のような活動方針を策定しました。
- UD製品・サーヴィスにとどまらず、各業界の垣根を超えた社会システム・UD基盤構築に向けた研究テーマ、普及活動に取り組み、その成果を基に国内外の政府機関や自治体への具体的な提案と協働を行い、法律、政策、条例等の仕組みづくりに貢献できるよう、「研究」、「普及」段階から「実現」段階へ積極的に事業を展開します。
- 過去8回の国際会議開催経験とその成果に鑑みて、国際会議をIAUDの中心事業と位置づけ、国内外への活動成果の発信、コミュニケーション活動として毎年度開催を目指します。規模の大小には拘らず、UDの推進に熱心な自治体を開催候補地として協議を重ねつつ、企画内容やプログラム作成など事前準備を綿密に検討します。
また同時に、検定事業、国際デザイン賞事業、ワークショップ事業等の自主事業を育成しながら、盤石な財政基盤の確立に努めます。
人が集まるイヴェントでは、感染拡大防止のためオンラインとオフラインの形式を適宜、使い分ける対応が必要です。また、時と場合に応じて、国内・地域限定型から、ネットワーク型の国際的なイヴェントに変えていくことも必要です。
(3)アクションプラン
第6次中期活動計画については、IAUD理念、ヴィジョンを達成するための新たな成長計画として、引き続き、以下のようなアクションプランを策定しました。
- 基本活動
- [研究開発] 外部機関・専門家との連携によるUDプロジェクト研究の推進
- [活動成果の発信] 公式ウェブサイトの充実、SNS、各種メディアを活用した広報の拡充
- [自主事業の育成] 国際UD検定、IAUD国際デザイン賞、国際UDワークショップ等の事業育成および認知度向上。
- 重点活動
- [国際UD会議] IAUDの基幹事業として位置づけ、国内、海外を問わず、可能な限り毎年度開催とする。必ずしも、「国際会議」の形式や規模の大小に拘らず、シンポジウム/セミナーのみ、あるいは展示会主体など、時と場合に応じて展開する。
海外は東南アジア、南アジア、中近東、アフリカなど発展が著しい国や超高齢社会に向かうEU諸国などを開催候補地として検討する。
国内は、大阪、神戸、横浜、札幌などの大都市、または地方都市で国際UD会議の誘致に熱心な自治体を候補として検討する。
- [国際UD会議] IAUDの基幹事業として位置づけ、国内、海外を問わず、可能な限り毎年度開催とする。必ずしも、「国際会議」の形式や規模の大小に拘らず、シンポジウム/セミナーのみ、あるいは展示会主体など、時と場合に応じて展開する。
- 強化活動
- [国際連携] 海外UD教育・研究機関/団体、国連諸機関との連携強化
- [国内連携] 省庁、自治体、教育・研究機関、学会、職能団体、障害者団体、NPO等との連携拡充
- [運営体制] 一般財団法人としての盤石な組織体制構築
※ユニヴァーサルデザイン(UD):できる限り多くの人々に利用可能なように最初から意図して、生活環境、建築、機器、システム、サーヴィスなどをデザインすること。IAUDでは、さらに一歩踏み込んで、「一人ひとりの人間性を尊重した安全・安心な社会環境づくり」こそが、ユニヴァーサルデザインの本質であると考えます。