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特集:towards2010「京都から浜松へ:ユニヴァーサルデザインをめぐる考察」2/3

2010.05.24掲載

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最近読んだ本

ここ数か月間の私の読書生活の伴侶になったのは、上のことをそれぞれに異なる方法で主張した2冊の本です。私は2冊の本をゆっくりと読み、一方の本を少し読んではもう一方の本を手に取りながら、何度も読み直しました。1冊はずいぶん前に出た古典的な著作で、Victor Papanekの『Design for the Real World(実世界のためのデザイン)』(参考資料4)、もう1冊はGraham Pullinの『Design meets Disability(デザインと障害との出会い)』(参考資料5)です。Papanekは非常に強い信念と主張を持っていたために、当時のデザインのエスタブリッシュメントからはあまり好意を持たれず、失意のうちに後半生を送りました。私はアムステルダムでPapanekと話をし、その後1997年にロンドンで夕食のテーブルを囲みながら、デザインと人類が直面しているさまざま課題について話し合ったときのことをよく覚えています。私はPapanekが、今デザインの世界で起こっている変化を目にすることなく、また、「シグネチャー」デザインよりもこの惑星の未来により関心を抱いて懸念する若い世代が、自分のアイデアをよく理解してくれていることを喜ぶことなく世を去ったことを残念に思います。Papanekは『Design for the Real World』の中で、大量消費(consumerism)を激しく非難し、大量消費に迎合するデザイナーを攻撃しました。Papanekのこうした攻撃の大部分は、70年代初頭以降に生じた大きな変化を考えると、もはや古く、ある意味で疑問に思える点もあるかもしれませんが、『Design for the Real World』という本の中心にあるのは、現実のニーズ、とりわけ恵まれない人々のニーズに役立つデザインが大切であるという強烈な主張です。『Design for the Real World』の中でPapanekが提唱しているレスポンシブルデザインというアイデアは、Roger Whitehouse氏がその基調講演で取り上げ、これを実現するためのプログラムの重要性を訴えていますが、こうしたプログラムは、京都の会議において参加者たちが共同で表明した目標とも合致するものです。

Graham Pullinは、高いデザイン性と障害を2つの出発点として、この2つが出会った場合に生まれる可能性について想像しています。Pullinの思考の原動力になっている問題意識は2つあります。一つは、メガネでは成功しているデザイン的感性がなぜ補聴器やその他の介護製品に適用されないのかという疑問です。メガネは「持っているべき」ファッションアクセサリになり、それが新しいマーケットの開拓につながって技術開発への資金の流入を促し、非常に多くの人々に優れた視力を提供することが可能になっています。もう一つは、現在主流となっているデザインは、障害を持つ人々から多くのことを学べるという信念です。Pullinは障害について、革新をもたらす大きな力と認識し、デザインに対するブレーキではなく、逆に豊かな発想を促す可能性を持つものと位置付けています。Pullinは、現実の出会い(real)、想像上の出会い(fictional)、分析的な出会い(analytic)の3 つの出会いを通じて、このような可能性を探っています。具体的には本の中で、「when the Eamses met leg splints(イームズが足の添え木に出会ったとき)」(現実の出会い)、「when universal meets simple(ユニヴァーサルがシンプルに出会うとき)」(分析的な出会い)、そして「if Philippe Starke met bottom wipers(フィリップ・スタルクが“お尻拭い”に出会ったら)」(想像上の出会い)と題されている部分がそれです。Pullinが主張しているのは、Victor Papanekが指摘した課題に対し、高邁で高いデザイン性を持った考え方を適用することであり、その際に、障害を持つ人々を共同デザイナーとして、また現実の暮らしの中でさまざまな課題を抱えつつ生き、そうした課題と共に生きるための革新を生み出し得るエキスパートとして取り込むことなのです。ヘレンハムリン研究所で採用されているアプローチも、これにかなり近いものです。同研究所の「インクルーシヴデザインチャレンジ」(いわゆるデザインマラソン)では、若いデザイナーたちが障害を持つユーザーとペアを組んでいますし、「リサーチアソシエーツプログラム」では、主要企業や慈善団体と共同で、現実の暮らしの中で遭遇するさまざまな課題に対して高邁な思想を適用しています。「インクルーシヴデザインチャレンジ」はモデルとして世界各地で採用されており、京都の会議でもさまざまな基調講演で取り上げられています。繰り返しになりますが、Victor Papanekが京都の会議に出席できなかったことは非常に残念です。私たちにできることは、Graham同様、もしPapanekが同席していたら、と想像することだけです。なお、国際ユニヴァーサルデザイン協議会が浜松で開催する次回の会議に参加されるすべての方に、上に挙げた2冊の本をぜひ読むようお勧めしたいと思います。どちらも私たちにとって大いに刺激になり、ユニヴァーサルデザインを21世紀を特徴づける大きな力にしようという気持ちにさせてくれます。

国を越えた協力

北欧諸国、すなわちデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドでは、実際に国を越えた協力が現実になっているのを目にすることができます。これらの国々では、福祉、デザイン、および研究の分野において、ますます国際協力が盛んになりつつあります。これはある意味で驚くにはあたりません。なぜならこれらの国々では社会福祉のモデルが互いにきわめて似通っているうえに、機能的デザインの伝統がもともと色濃い地域だからです。これら2つの傾向が合流したの1968年夏、ストックホルムのKonstfack スウェーデン国立美術工芸大学でVictorPapanekが講演を行ったときで、車椅子に座った人を表す国際シンボルマークが生まれたのもこのときのことでした(参考資料6)。しかし興味深いのは、これらの地域の人々の政治的な組織作りの方法であり、国内のみならず地域全体を通じて、デザイン、教育、政治の発展の間に強いつながりが認められることです。Lars Lindberg氏は、『北欧におけるUD(UD in Northern Europe)』と題した基調講演の中で、この点について主に立法府と政府の取り組みの面から述べています。一方、Ergonomidesign社のDag Klingstedt氏は、『生活用品のユニヴァーサルデザイン(UD forDaily Commodities)』と題した基調講演の中で、同じ点についてデザインの面からアプローチしています。Klingstedt氏は、Ergonomi社におけるデザインの進化について詳しく取り上げ、介護製品を開発するためにMaria Benktzon氏とSven-Eric Juhlin氏が初めて利用したユーザー調査の方法が、後に一般化されて、手工具やベビーカーなどの主力製品にも使われるようになったと述べています。

ところで、実はこの2つの基調講演を結ぶ大きな枠組みが存在しています。それは、デザインと教育を通じてインクルーシヴな社会を構築することを重視する「障害に関する北欧理事会(Nordic Council on Disability)」や「北欧福祉センター(Nordic Welfare Centre)」など、国境を越えた取り組みによって実現された進歩の一つです。「新しい旅(The Modern Journey)」、「すべての人のための観光(Tourism for All)」、および「すべての人のための都市計画(City Planning for All)」をテーマとした数々の取り組みは、すでに触れたコペンハーゲン地下鉄やゾウ舎のような模範的な例に直接結実しており、これらに加えて企業に対しても、ユニヴァーサルデザインによって企業の社会的責任(CSR)を果たせるだけでなく、ユニヴァーサルデザインを通じて新たな事業開発や技術革新が生まれる可能性があるのだという認識を高めるのに役立っています。おそらくこうした取り組みの中で最も重要なのは、地域全体を通じて知識の共有と移転が可能になり、そのことによって、Ergonomidesign社がパイオニアとなった製品技術革新のプロセスやユーザー調査のプロセスなど、個々の国で開発された技術や技能が地域全体に普及することでしょう。このことは北欧諸国における「デザインフォーオール」運動にさらに勢いを与えており、その成果は北欧のデザインフォーオールに関する雑誌「Form & Funktion」にこれまでにも数多く掲載され、公開されています。こうした国境を越えた協力から見えてくるのは、すべての人々に対し、そのライフスパンの全体を通じてメリットをもたらすようなクオリティの高いデザインの普及と繁栄が現実のものになっているということです。これは、個別の解決策を重視し、高額でしばしばデザイン性に乏しいおざなりの介護製品を作ることでよしとする姿勢(ほかの地域では残念ながらこうした介護製品がいまだに標準とされています)とはまったく異なるものです。

知識の移転

私たちの活動にとって調査研究が基盤であるのと同じように、「知識の移転」がここで重要課題となります。なぜ良いデザインが必要かという根拠が重要であることについてはすでに述べましたが、この点は、デザインによる解決策の価値と有効性を担保するためだけでなく、産業界から協力を得るためにもきわめて重要であると私は思います。英国では、私たちは工学・物理科学研究会議(Engineering and Physical Sciences Research Council: EPSRC)を通じて研究資金の支援を受けており、この支援がはずみとなって「British Standard on Inclusive DesignManagement」(インクルーシヴデザインマネジメントに関する英国標準)の策定につながり、これがさらに産業界との数多くの協力を生んでいます。こうした協力のうち最もめざましい成果を上げているのが、BT社の変革プログラムです。John Clarkson教授はこうした背景の一部について、「Countering Design Exclusion(デザイン排除に対抗する)」および「The practicalities ofInclusive Design(インクルーシヴデザインの実用性)」と題した2つの基調講演で取り上げており、同教授と私は英国において、特別号の形を取ったいわば「インクルーシヴデザインジャーナル」誌の発刊へ向けて、引き続き作業を進めています。発刊といっても、タイトルになっている分野における専門雑誌を発行しようというのではありません。Clarkson教授と私は、それではユニヴァーサルデザインの統合ではなく、むしろユニヴァーサルデザインの分離を目指すことになり、非生産的だと考えています。私たちが企画しているのは、すでに定評ある主力雑誌でインクルーシヴデザインの特集号を組むことであり、今後はこのような取り組みを重ねつつ、さらに広げていきたいと思っています。

浜松での会議開催までに、「Journal of Engineering Design(工学設計ジャーナル)」誌が2つの特集号を、「Applied Ergonomics(応用エルゴノミクス)」誌が1 つの特集号を発行しているはずです。ヘレンハムリン研究所の「インクルーシヴデザインチャレンジ」、産業界との連携を目的とした同研究所の「リサーチアソシエーツプログラム」、Clarkson教授率いるケンブリッジ大学工学設計センターのPhDプログラムと共同で進めているこの取り組みによって、私たちは新しい世代のデザイナーと研究者たちが大いに刺激を受けるとともに、研究・教育界から産業界への継続的な知識の移転が確実に行われるようになることを願っています。ユニヴァーサルデザインが今後成功を収めるためには、このようにして次世代に照準を合わせることが不可欠であり、技術開発とその成果としての製品・サービスの技術革新がますます加速化していることからも、そうした次世代への着目は重要であるというのが私の個人的信念です。実際、これまでの私たちの作業の多くを左右してきたのは、すでに存在するデザインされた世界の不適切性であり、主力製品・サービスと、寿命の延びつつある人口全体との間の「適合(フィット)」の欠如でした。

過去の繰り返し

グローバル化が進む消費社会にあって、過去の過ちを修正するために多くの労力が費やされるのは皮肉なことですが、私たちはClarkson教授が基調講演で指摘した「デザイン排除」の影響をますます受けやすくなっています。それが特に顕著なのは、コミュニケーションとニューメディアの分野です。企業は若者をターゲットに据え、高齢者や障害者のニーズをほとんど、あるいはまったく無視しており、この分野では技術を存分に活用することでデザイン排除に対抗できるだけでなく、ユニヴァーサルアクセスが可能な新時代の到来を告げることもできるはずなのに、まさにその分野において、私たちはますますデザイン排除に直面しつつあります。バリアフリーデザインは、長い年月をかけて、すでに構築された環境から多くのデザイン排除を取り除いてきましたし、これまでに挙げたさまざまな例からわかるように、私たちはユニヴァーサルデザインの原則に基づいて作られた未来について、非常に明確で明るいビジョンを持つことができます。Web Accessibility Consortium(W3C)はインターネットに関して同様の成果を達成していますし、多くの国における障害者/アクセシビリティ関連法の制定はこうした成果を実地に採り入れ、その効果はとりわけ公共サービスと消費者サービスに波及しています。

しかしながら、その一方で製品デザインにおける進歩は遅々として進みません。これは一面では製品デザインが規制や立法措置の対象としてなじまないからであり、また一面では、各種国際標準が法律よりも遅れているからであり、さらに一面では、新製品開発と投入のペースが加速化していて、製品開発プロセスに対する時間とコストのプレッシャーが高まっているために、ユーザーによるテストや評価がその犠牲になっているからです。たとえばクルマや耐久消費財の分野では漸進的な進歩を認めることができるものの、中小企業が主体の部門では同じ過ちが相変わらず繰り返されています。私たちは現在、各種ツールやユーザー調査のテクニック、能力データに関する知識ベースを構築しており、大手企業によるこの知識ベースの採用は徐々に進んでいます(Clarkson教授が基調講演で解説しているこの知識ベースは、2010年に「Applied Ergonomics」誌の特集号に掲載される予定です)。その一方で、パーソナルコミュニケーション製品の進歩は速く、この分野は特に、あらかじめ製品に組み込まれた形でのデザイン排除の影響を受けやすくなっています。こうした製品に最初に飛び付くのは、主に若者であり、ほかの人たちより能力に恵まれているユーザーであることが多いだけになおさらです。Nokia社はユニヴァーサルデザインアプローチの採用に真剣に取り組んでおり、ヘレンハムリン研究所とも一連のプロジェクトやワークショップで密接に協力しています。しかし、この分野において決定的に必要なのは、消費者へのアピール度を損なうことなく、ユニヴァーサルデザインを目指す技術革新の推進力となるような、数多くの発想豊かなデザインの実例です。

ヘレンハムリン研究所はここ数年、「リサーチアソシエーツプログラム」を通じてこうした課題に取り組んでいます。デザイン、研究、産業界との1年間の協力の試みということもあり、成果物としてのデザインの多くはまだコンセプト段階にとどまっていますが、これらのデザインは企業にとって、将来を見据え、物事を不可能(ディスエーブル)にするのではなく可能(イネーブル)にするような技術の応用方法を模索するのに役立っています(参考資料7)。これらのデザインの例は今ではかなりの数にのぼっており、そのすべてはヘレンハムリン研究所のウェブサイトからアクセスすることができます。これらのデザインのコレクションには学生によるプロジェクトの成果も含まれているため、品質にはばらつきがありますが、コレクション全体は現在では価値ある資料となっており、個々のプロジェクトについては、ヘレンハムリン研究所で「リサーチアソシエーツプログラム」を率いている王立芸術大学院リサーチフェローのRama Gheerawo氏に問い合わせることで、詳しく知ることができます。ここでは、2008/9年の4つのプロジェクトを取り上げましょう。このうち2つは、Blackberry社とSamsung社がパートナーとなっており、年齢ないし障害によって排除されているユーザーを対象にしたものです。2つのプロジェクトのアイデアの要点は次のとおりです。1つは、マニュアルをきちんと作り、デジタルデバイドの間にアナログの橋を架けること、もう1つは、「アイズフリー(eyes-free)」操作がすべての人にとってメリットをもたらし、「ハンズフリー」操作を補うものになりうるということです。残り2つのプロジェクトでは持続可能な(環境および社会)技術を取り上げ、電気自動車とインドの地方をテーマに取り上げています。一方のプロジェクトでは、デジタル技術はクルマとドライバーの結び付きをさらに改善できるのか、そしてそれは都市環境にもメリットになるのかということ、もう一方のプロジェクトでは、エネルギーへのアクセスは人々を貧困から脱出させることができるが、ではインド政府がすべての家庭に電気を供給した場合、どのように使われるのが最も望ましいのか、ということを問題意識に掲げています。これらのプロジェクトについてはwww.hhc.rca.ac.uk/1652/all/1/inclusive_design.aspxで参照できます。過去のすべての関連プロジェクトについては、この記事の最後の参考資料の部分にリストアップしました。

マニュアルと本体を一体化し機能や操作を説明

インストラクション・ショートカット・カード

全インタフェース/機能のマップ

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