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特集:towards2010「京都から浜松へ:ユニヴァーサルデザインをめぐる考察」1/3

2010.05.24掲載

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「towards 2010」は第3回国際ユニヴァーサルデザイン会議2010 in はままつ」の開催に向け、海外の有識者の方から会議への期待や議論すべき課題などについて、IAUDニュースレターの巻頭特集として寄稿していただいたものです。

※このコンテンツはIAUD Newsletter vol.2 第9号(2009年12月号)に掲載されました。
原文(英語版)はこちらをご参照ください。


ごあいさつ

ロジャー・コールマン
英国ロンドン・王立芸術大学院(RCA)インクルーシヴデザイン名誉教授


2006年11月に京都で開催された第2回国際ユニヴァーサルデザイン会議の講演集(参考資料1)の監修にあたった私は、ユニヴァーサルデザインの現状を概観できる、すばらしいポジションに恵まれました。また、私は一年前、ロンドンにある英国王立芸術大学院(RoyalCollege of Art: RCA)のヘレンハムリン研究所(Helen Hamlyn Centre:HHC)共同所長の職を退き、同大学院インクルーシヴデザイン名誉教授となりました。自身の職場環境の変化によって、私はこれまで以上に幅広くユニヴァーサルデザインの将来について考え、そして京都で開催されたあの非常に有益な会議以降、私たちが直面している新しい課題や問題についても、自由に思いをめぐらすことができるようになりました。私はこの機会を借りて、国際ユニヴァーサルデザイン協議会の会員および支援者の皆さまに私の考えをお伝えしたいと思います。そして、私の考察がより明解な形を取るよう助言をしてくれた人たちと、この記事の執筆に助力を惜しまなかった人たち、すなわちヘレンハムリン研究所リサーチフェローのRama Gheerawo氏とYan Ki Lee氏、ノルウェーデザイン協議会デザインフォーオール(UD)プログラム主催者のOnny Eikhaug氏、デザインフォーオール(UD)に関するノルウェーの雑誌『Form & Funktion』編集者のKarin Bendixen氏、およびケンブリッジ大学工学設計センター(Engineering Design Centre)のJohn Clarkson教授に感謝したいと思います。

患者の安全のためのデザイン

RCAの名誉教授になったことで、私はさまざまな校務と後進の育成という職務から解放され、ヘレンハムリン研究所および同研究所のさまざまなプロジェクトに対するアドバイザーとして、引き続き同大学院に勤務することとなりました。現在私は、RCA、インペリアル・カレッジ・ロンドン、およびパディントンにあるセントメアリー病院が共同で実施している3 年間の「デザインを通じた医療ミスの防止(Design Out Medical Error: DOME)」研究プログラムで諮問委員会の委員長を務めています。(www.domeproject.org.uk) 私は京都の会議で患者の安全の重要性について取り上げ、この分野ではデザインが非常に大きな役割を果たし得ると主張しました。そして、私がそれまでに携わった仕事、すなわち英国保健省のためのスコーピング調査(参考資料2,3)から始まって、医療分野の包装・製品・救急車のデザインなどに関する一連のデザインプロジェクトに至る仕事についても紹介いたしました。これらの仕事の内容については、ヘレンハムリン研究所のウェブサイト(www.hhc.rca.ac.uk/291/all/1/Publications.aspx)で詳しく知ることができます。最近では、院内感染撲滅のためのデザインに関する英国デザイン協議会との共同研究に携わっています
www.designcouncil.org.uk/Design-Council/Files/Landing-pages/Design-Bugs-Out/)。ヘレンハムリン研究所のSally Halls氏およびGrace Davey氏のチームはこれまでにめざましい成果を上げ、日常的に使用する医療機器の安全性を高める6 つの革新的デザインを開発しました。具体的には、清掃の容易な血圧計カフ、カニューレ(薬液の注入や体液の排出、気管切開の際の空気の送排などの為に体内に挿入するパイプ状の医療器具)の挿入時間表示器、清掃の容易な病床カーテン用クリップ、防水層が損傷すると色が変わるインテリジェントマットレス、清掃の容易なパルス酸素濃度計、患者用ティッシュディスペンサーがそれです。(www.hhc.rca.ac.uk/2261-2282/all/1/Designing_Bugs_Out.aspx および www.designcouncil.org.uk/Design-Council/Files/Landing-pages/Design-Bugs-Out/Everyday-equipment/



マグネット固定式で
清掃が容易な血圧計カフ

カニューレ挿入時間表示

清掃が容易で患者に優しい
パルス酸素濃度計

患者が使用する消毒用ティシュ


DOMEプロジェクトは多くの意味で過去の成果の集大成です。これまでの教訓と考察のすべてが、ロンドンの重要な教育病院における毎日の業務の現実に活かされているからです。私は研究チームを組織し、プロジェクト案を作成し、プログラムのために167万ポンドの資金を確保しました。重要なのは、研究チームが何のためのデザイン向上かという根拠の明確化を重視している点で、私はこの点がDOMEプロジェクトの本質的な部分だと思っています。それまでのデザインプロジェクトでは、医療分野における包装、あるいは蘇生ベッドなど、個別のテーマを取り上げ、それぞれのケースにおいて、最初は問題明確化のための証拠収集を行い、次にこれを踏まえて解決案が妥当かどうかの根拠を見い出すという形を取っていました。DOMEプロジェクトでは、デザインに関する個別の問題を超えて、システム全体により注目するアプローチが取られています。このアプローチでは、プロセス、人々、機器を病棟の全体性の中で考慮し、とりわけ患者のベッドスペースまわりにおいてプロセス、人々、機器が互いにどのようにかかわっているかという相互作用に着目します。個々の製品デザインの革新性がどれほど優れていようと、このような全体的なアプローチがなければ、そしてプロセス、人々、機器を包含する幅広いコンテキストの中で問題と解決策とを結び付ける健全な根拠がなければ、患者の安全が向上する保証はありません。私は、ユニヴァーサルデザインについても同じことが言えると思います。

デザインインテグレーション

現実に実践されているユニヴァーサルデザインに関して私が抱いている大きな懸念の一つは、結果としてある種の烙印付け的な側面を---しばしば知らないうちにですが---持っていることであり、身体障害者や要介護者(同種の表現はたくさんありますが、ここではそのうちこの2つを例として引きます)のためのデザインという歴史的出自をいまだ乗り越えていないことです。このようなことを言ったからといって、私は身体障害者や要介護者向け製品のデザインを批判するつもりは毛頭ありません。これらの製品はいずれも長く重要な歴史を持っています。しかし、ユニヴァーサルデザインとインクルーシヴデザインの本質は、機能と解決策とがシームレスに統合されていて、一切の烙印付けなしにあまねく使用でき、アクセスできるところにあると思うのです。これはデザイナーやメーカーが個々の製品開発において実際に直面する問題であって、本当に効果的な解決策が生み出されるためには、企業がインクルーシヴデザインやユニヴァーサルデザインのアプローチを、企業全体の哲学・実践・消費者製品提供の中核に据える必要があります。OXO社のAlex Lee氏は基調講演の中で、このようなアプローチがいかに同社の社風を貫いているか、いかにGood Gripsシリーズ製品の本質的で統一的な要素になっているかを雄弁に語ってくれています。一方で、Lee氏は次のように付け加えることを忘れませんでした。「ユニヴァーサルデザインが当社にとって“マーケティング”の手段だったことはありません。当社はユニヴァーサルデザインを実践していますが、喧伝はしません」。OXO社のGood Gripsシリーズは、革新性とデザインの追求から生まれた、使いやすい魅力的な製品として販売されています。

英国では、大手通信事業者のブリティッシュテレコム(BT)の例があります。同社はここ数年の間に企業文化を大きく変革し、高齢者や障害者の顧客を専門に担当す小さな部門を持つメインストリームプロバイダーから、製品・サービス開発およびマーケティングと消費者製品提供全体において、インクルーシヴデザインをこれらを推進するための重要な要素として位置付ける企業へと変身しました。Good Gripsシリーズ製品の場合と同様、BT社はユニヴァーサルデザインそのものではなく、使いやすさと結び付いた消費者にとってのメリットという側面を強調していますが、社内的には同社がたどってきた「変革の旅路」を非常に重視しています。その旅路は、「British Standard on Inclusive Design Management (BS7000-6)」(インクルーシヴデザインマネジメントに関する英国標準)に大きく触発されて2005年に始まり、2006年のインクルーシヴデザインツールの開発が重要なマイルストーンになりました。BT社は変革プロセスの一環として社内でこのツールを使用し、最終的には2007年7月に立ち上げたウェブサイトでこのツールをパブリックドメインとして公開しました(www-edc.eng.cam.ac.uk/betterdesign/



コペンハーゲン地下鉄インテリア
写真2点とも
� Karin Bendixen / Form & Funktion

これらの企業が上げた成果には、多くの点で、私が患者の安全のためのデザインにおいて推進したいと考えているシステムレベルのアプローチが反映されています。システムとプロセスの改善を通じてより安全な医療サービスを提供するために、プロセス、人々、製品のシームレスな統合が必要であるのと同様に、すべての人にとってアクセス可能な、統一された形での消費者製品提供を実現するために、製品機能と製品レンジのシームレスな統合が必要なのです。そしてそれは、理想的には、すべての人にとっての使いやすさを向上しつつ、特定のユーザーグループのニーズを考慮した付加機能や付属品をも備えたコア製品を通じて行われるべきものです。このことは、製品レンジや統一された消費者製品提供の例で考えるとわかりにくいかもしれませんが、公共施設や公共サービスに適用してみるとはるかに理解しやすくなります。実際、Patricia Moore氏、定村俊満氏、およびRoger Whitehouse氏の基調講演に、3つのすばらしい例を見い出すことができます。いずれの例でも、あらゆる要素がシームレスかつ優美に統合されており、すべての利用者を暖かく受け入れ、迎えてくれる雰囲気を持つ公共輸送システムや建物が実現されています。それぞれの例の中核にあるのは、重要なユーザーグループ(高齢者、車椅子利用者、視覚障害者)への対応を明確に意識し、これを重視する姿勢であり、その結果としてのデザインが、これらの「非常に重要な」ユーザーグループにとってきわめて良好に機能し、そのことがさらに広く大多数のユーザーにとっての利用のしやすさにつながっています。

京都では取り上げられませんでしたが、本当の意味でアクセスしやすい都市・近郊インフラの開発に真剣に取り組んでいるさまざまな都市の例も引き合いに出すことができます。このようなインフラの実例として、KHRAS Architectsが駅を設計し、Giugiaro Designが車両を設計したコペンハーゲン地下鉄、Norman Fosterの設計になるコペンハーゲン動物園のゾウ舎などがあります。

こうした事例を見ると、デザインが統一的・統合的な要素として機能していることがわかります。優美で革新的なうえに、よく考えられ、研究されたデザイン上の数々の特徴が、全体的なソリューションとしてまとめられていることで、クオリティが一段階アップしていることがはっきりと見てとれるのです。実際、デザイナーや研究者たちが「グッドデザイン」「ベターデザイン」「レスポンシブルデザイン」について語っているのを聞くと頼もしい限りです。私は、ユニヴァーサルデザインがその本来の軌道に乗り、過去を乗り越え、現実に世界を変える力となるためには、こうした「グッドデザイン」「ベターデザイン」「レスポンシブルデザイン」といった言葉で表現されるデザインの特質をさらに前面に押し出す必要があると考えています。

≪次のページに続きます≫


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