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2016.12.09掲載
(こんにちは、皆様。IAUDアウォード2016表彰式にようこそお越しくださいました。)
私は毎年アウォード審査委員長を務め、応募作品に見られる創意工夫や問題意識、ディテールへのこだわり、そしてだれもが楽しく共用できる「Society for All(みんなのための社会)」の実現に向けた前進に感銘を受けるとともに励まされています。
審査員は、大賞、金賞、銀賞を授与することにより、 質の高いユニヴァーサルデザインの実務や方法、成果、そしてユニヴァーサルデザインへの全社的取り組みの例を、製品とサービス提供の改善継続の推進要因として称賛し助長したいと考えています。IAUDアウォードは、デザインプロセス、使いやすさ、持続可能性、インクルージョン(包摂)、対話、そして知識移転での利用者参加というユニヴァーサルデザインの基準を満たしている、または満たそうと鋭意努力しているすべての応募作品に授与されます。少数ですが、これらの基準を満たしていない応募作品には授与されません。
昨年は、「応募作品からユニヴァーサルデザインが現場で広く理解され普及が進んでいる という証左を得た」と私を含む審査員がコメントをしました。今年は 、単なるイノベーションというよりも改善、そしてユニヴァーサルデザインの基本を理解することが、「製品やサービスを絶え間なく改善すると、補助を必要とする障害がある人だけでなく一般の人々のニーズと願いも満たす」という気づきへとどのようにつながっていくかを重視しました。
今年の応募作品は目標がより包摂的になり、個人の好みやライフスタイル(使いやすさのソフト面)に注目することによって、まさに「優れた」デザインとしてのユニヴァーサルデザインの認識が高まり、思いやりのある「Society for All(みんなのための社会)」が単なる願いではなく標準となる方向性を示していることが立証されています。
それは、敬愛する故寬仁親王殿下が約15年前のIAUD創設時に第一に目指された目標であり、以来その目標に向かって努力している私たち全員にとって、この目標実現を目の当たりにすることは大きな喜びです。今回、IAUD総裁を務めておられる寬仁親王殿下の第二女子瑶子女王殿下に最終審査にご臨席賜り、選考のプロセスと各作品に関する協議にもご参加いただきました。審査委員は、女王殿下の強いご関心と貢献を大いに歓迎し、今後のご支援と貴重な助言に期待しています。
主な審査基準は、「ユニヴァーサルデザイン(UD)の理念が提示されているか、またそれを達成するための優れた活動が提案または実施されているか」です。UD理念の提示およびそこから生まれる活動の実践等を踏まえて、総合的に審査・評価しました。また、提出された資料も審査の対象として重視しました。なお、審査観点は以下の通りです。
審査委員長: | ロジャー・コールマン(英国王立芸術大学院名誉教授) |
副委員長: | 益田文和(株式会社オープンハウス代表取締役) |
委員: | フランセスク・アラガイ(スペイン デザインフォーオール財団代表) |
同: | トーマス・バーデ(iFユニヴァーサルデザイン&サービスGmbH CEO) |
同: | ヴァレリー・フレッチャー(米国人間中心デザイン研究所代表) |
同: | 荒井利春(金沢美術工芸大学名誉教授) |
同: | 川原啓嗣(名古屋学芸大学 大学院メディア造形研究科教授/名古屋学芸大学 メディア造形学部デザイン学科長/一般財団法人国際ユニヴァーサルデザイン協議会専務理事) |
情報提示のプラットフォーム全体の整合性は、重要でありながらほとんど無視されている問題です。インターフェイスデザインの整合性についても同じことが言えます。OSや、企業・個人向けソフトウェアの急速な進化に伴うインターフェイスのデザイン変更はユーザーの苛立ちと迷惑の原因になりかねません。そこにクロスプラットフォームの問題がさらに輪をかけます。同じ情報でも、デスクトップのスクリーン、ノートPC、タブレット、モバイル機器に表示されるフォーマットやインタラクションモードが異なる場合が往々にしてあります。富士通は、デバイスやソフトウェア・プログラムの基本要素、プレゼンテーション、インタラクションを標準化してこの問題を基本的レベルで解決することを目指し、UDの精神に則った整合性を最優先し、ウェブアクセシビリティ・イニシアティブ(WAI)のウェブコンテンツアクセシビリティ・ガイドラインAA等級に準拠する方法を示しています。この新しいグラフィック・ユーザーインタフェース・デザインは本質的にビジュアルですが、完全な整合性とアクセシビリティへとつながる重要かつ不可欠な一歩であり、業務管理ソフトウェアに新基準を導入するものです。
審査員は、ユーザーの問題、そして「すべての富士通のソフトウェアに共通するひな形として、ユーザーの問題についてシステムレベルでどのように取り組むか」に配慮されていることを歓迎しました。そして、ソフトウェアとインターフェイスデザインの発展に伴うユーザーの視点から、本当に必要な整合性とアクセシビリティを優先する幕開けと考えています。
ムスホルム・ホリデー・スポーツ・コンファレンス・センターは、多目的ホールと新空間の24室によって多様性に利するレクレーションの提示に新たな基準を設けています。デンマーク筋ジストロフィー財団は模範的な参加型デザインプロセスを取り入れ、環境への迅速な対応と体験の満喫を融合しました。ムスホルム・センターは、豊かな素材や仕上がり、色彩を用いて高いレクリエーション機能と水辺のアウトドアやプライベート・スペースを組み合わせ、筋ジストロフィー患者が家族や友人、一般の人々と一緒に楽しめる豊かでくつろいだ体験を提供します。
審査員は、対象コミュニティのためのレクリエーションセンターの開発が主目的であったことを意識しつつ、真の共生の精神を持ち、かつ参加型デザインプロセスの導入を目指し、万人ためのリゾート・会議センターを実現しているデンマーク筋ジストロフィー財団を高く評価しました。オリンピック・パラリンピック大会には訪日客が大挙して訪れることが予想されます。日本は、交通システム、そして既に実現されているUDのレベルに誇りを持っていますが、「歓迎されている」、「東京はバリアフリー」と訪日客に感じてもらうにはまだすべきことがたくさんあります。パナソニック株式会社は、UDの考え方をホリスティックに取り入れるとともに重要利用者グループと密に協力し、特に来日客の移動とナビゲーションを円滑に行うことを目的としたハード・ソフト統合型ソリューションの開発と試験を進めています。
パナソニックはこの課題に取り組み、ハードとソフトが十分に融合した実用的ソリューションを実現したと審査員は考えました。
博物館の活動の目的は、個人の能力の如何にかかわらず誰でも参加できる豊かな経験を創り出すことにあります。そのために11人から成る強力なインクルーシヴデザイン諮問委員会と内部作業部会を設置するとともに厳しい反復デザインプロセスを整備しました。この手法は、博物館のあらゆる活動分野、そして建築、施設、展示、教育、プランニング、デジタルメディア、テクノロジーの細部にまで浸透しています。また、詳細なインクルーシヴデザイン・アクセシビリティ基準が定められています。
審査員は、共通の方法を「融合型」UDの好例およびインクルーシヴ型の継続的実践例、研究、普及の格好のモデルとして強調していることを高く評価しました。特に、そのようして生まれた博物館のビデオガイダンスのユーザー・インターフェイス・デザインはシンプルで、耳に障害のある人を含む誰でも直感的に分かります。
史跡や街の中心の場合、真のアクセシビリティの実現は難題であり、ヨーロッパではそれがとても顕著です。このラトヴィアの構想は、ベストプラクティスの徹底研究、そして現地で必要な能力を育成する知識転移・教育プログラムが土台になっています。今回の構想は根拠の確かな素晴らしい第一歩であり、長期的な結果につながる見込みが高いと思われます。
この構想は建築学校から始まり、市民との素晴らしい分野横断型協力に結実したまれな例で、UDに関して地元の経験や能力が限られている分野の知識不足を埋めるのに役立つ、と選考委員会は考えました。
多様性に関与し、多様性を理解する互恵の上に成り立っている全社的構想の好例。共有経験研修とレクリエーション大会のプログラムで富士通の社員と現地・地域社会の多彩な人々が一堂に会します。その結果、相手の立場に立って違いと多様性に関わるようになり、そこから負けない心が社員に育ち、会社の文化や研究開発へフィードバックします。関係者全員に利する好循環です。
審査委員は、企業文化にUDを統合する構想全体に含まれる一連の意識向上活動で推進される多様性とイノベーションに焦点を合わせていることを歓迎し、多様性と包摂の好例として挙げました。
孫育てを念頭に置き、使いやすさを追求して人間工学を駆使し、哺乳瓶のデザインに一連の改善が行われた模範的共創デザイン。ユーザー体験から直接生まれ、現実の逼迫したニーズに対応する素晴らしいアイデアです。特に家族の人数が減り、共働きが多いことを背景に、乳幼児の育児で祖父母が果たす役割がますます重要になっています。また、それによって世代間の絆を強めることができます。これは、現在そして今後日本を始め高齢化が進むすべての国で重要なことです。
審査員は、保育をする祖父母などに適した使いやすい上品なデザインの哺乳瓶であることに加え、この構想の背景にある新しい多世代職場の実現という独自の視点を高く評価しました。
おもてなしガイドは、スマートフォンを利用し、観光客など外国語を話す人々のために緊急事態や公共アナウンスの翻訳を文字表示できるシステムです。Wifiが必要ないため、インストールが簡単、かつ既存の放送器機と連動した安定した操作性を誇ります。このサービスデザインは既に多くの状況で安定した配信連携を組んで利用され、外国語を話す人々にその場で役立て喜んでもらえます。
審査員は、特に多くの訪日外国人を迎えるオリンピック・パラリンピックを2020年に控え、おもてなしガイドのシンプルさと実用性を高く評価しました。
助成と公的支援の基準が包摂とUDを後押ししている例であり、特にスポーツが関わる場合、誰でも参加できる施設デザインの考え方を示す絶好の例です。難しいエクストリームスポーツ用のUD器機は数年前からありますが、キャンプ・マンユンのアウトドアアドベンチャーアクティビティ・プログラムはインクルーシヴ型環境でのエクストリームスポーツ体験導入の模範例です。年齢や能力、背景に関係なく参加者は誰でも、バリアや差別なく一緒に同じアドベンチャー体験をすることができます。
審査員は、極限環境でこのようにアクセシビリティを取り入れ、全員が同じチャレンジに立ち向かい、全員に喜びと肯定的な生活の質を提供している素晴らしい例、特に増収を含む2年間の劇的な影響に感銘を受けました。
過去の経験と顧客からのフィードバックをもとに製品の改良を続ける好例です。富士通のらくらくスマートフォンは、ユーザーとの協議を重ね、インクルーシヴデザイン/UDを取り入れて製品改良を達成・維持する方法を示しています。また、らくらくスマートフォンは高齢者や目に障がいのある人も使うことができます。これまでの基本的な使いやすさを継承し、見やすく使いやすいタッチパネルとインターフェイスには家族や友人との接続を助ける支援機能が完備されています。
UDそしてらくらくスマートフォンへと進んだ応用・開発の15年の歴史は、日本の電話デザインの長く続く優れたUD例であり、審査員はその点について富士通を高く評価しました。
訪日客との円滑なコミュニケーションや会話を支援するこのシステムには高精度翻訳エンジンと騒音軽減オーディオ技術が搭載され、信頼できる日本語・複数言語間翻訳処理サービスを提供します。ハンドフリーの会話が可能。また、直感的操作と同時通訳表示により、ストレスを感じないで会話ができます。
開発初期段階の潜在的におもしろい構想であり、現実の使用状況に今後とも注目していく必要があると審査員は考えました。2020年オリンピック・パラリンピック大会に備えてインターフェイスと基本的なサービス概念に開発の余地があります。
タブレットとスマートフォン用に開発されたコミュニケーションアプリです。お絵かきや多言語翻訳など様々な機能が組み込まれ、音声認識や表示機能を用い、話した言葉を指でなぞった軌跡に沿って表示します。目的は、耳に障がいのある人や訪日客(特に手話を使うことができない人や外国語を話せない人)とのコミュニケーションを行うことにあります。音声認識、お絵かき、翻訳機能が揃っているので、視覚を用いた多言語コミュニケーションには理想的です。
審査員は、自然なコミュニケーションと交流を推進するという点ではこの応募作品を高く評価しましたが、利用者を対象とした試験を行い、利用者からフィードバックを得てさらに開発をする余地があると考えました。
九州大学との綿密に計画された重要な共同研究プログラム。デジタルプラットフォーム全体でUDを実現するには読みやすくて形の良いフォントデザイン(可読性と美感性の融合)が必須です。この継続中の研究開発プロジェクトでは、ユーザーを対象として直接行う検証を基本としており、可読性、視認性、判別性、そして大切な美感性など各種基準について60種類のフォントの検証を行い、その結果フォントデザインのUDに関する理解が深まりました。
審査員は、デジタル世界で極めて重要なこの仕事は、特にこれまで主に西洋の言語と文字の形に重点が置かれてきたと考えました。
東芝は慶応義塾大学のユニバーサルデザインラボと協力して15人乗りの.駅舎向けエレベーターを新たに開発しました。車椅子の利用者が同時に2人で利用することができる業界初のエレベーターです。操作盤が前後にあるので車椅子利用者2人が簡単に操作することができます。発売前に利用者が参加して試験と評価を繰り返し、操作の位置や機能を確認しています。
審査員は、高度な使いやすさと機能を確保するために慶応義塾大学と共同で繰り返し行った利用者主体のデザインを高く評価しました。
今回ロビーをリノベーションしたことにより商業ビルの入り口が誰にとってもバリアフリーになりました。ジクザグに進むスロープで正面と中央への動線を作り、ビルに個性とキャラクターが生まれています。カラフルなアイコンを用いた案内誘導要素、特徴的なスロープ、鮮やかなコントラストが組み合わさり、視力の弱い人をサポートし、移動支援機器を利用する人の進路となります。こうして計画的に生まれたのが大胆不敵なユニヴァーサルデザインの優秀作品であり、挑発的でありながらも正面が人目を惹く多目的な使用環境の整備に成功しています。
審査員は、既存構造の中でインクルージョン(包摂性)を実現する環境と社会的持続可能性の好例、そして機能性と美感性の融合が良く分かる実例としてこの作品を高く評価しました。
文化遺産の場所はUDにとって大きな課題ですが、観光や海外旅行の重要性が増しているのに伴い、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)が叫ばれている欧州、そして世界でUDがますます重要になっています。歴史遺産のディテールを損なわずにアクセシビリティを実現するのは簡単ではありません。このプロジェクトは、通常アクセシビリティと関連しているハードの機能や器機と同じように人員配備や情報といった「ソフト」の要因を重視しているグッドプラクティスの好例です。訪問者数が増え満足度が上がったことが、この手法の成功を裏付けています。
審査員は、ユネスコ世界遺産という難しい環境で、土地と建物のリノベーションを行いアクセシビリティの改善を実現した好例としてこの応募作品を高く評価しました。
コンパクトな省スペース構造で設置が簡単な経済的ホームエレベーター。高齢者も乗れます。慶応義塾大学と共同開発したもので、これまでであればホームエレベーターを検討しなかった人でも買える手ごろな値段です。緊急事態対応の手順と報告は簡単。乗降時の安全性は確実です。また、音声アナウンスや音声指示ボタンなどの制御機能は使い方が簡単で、自信を持って操作することができます。
審査員は、利用者主体の優れた研究、反復を行うデザインプロセス、狭い空間に家庭用エレベーターを設置する方法を良く理解していることを高く評価しました。
ボディスキャンなどの粒子線治療はとても怖い場合があります。「処置環境で患者がどのように感じるか」という医療機器・設備デザインのソフト面は治療に対する反応に大きく影響します。 この作品は、照明、色彩、素材、空間設計を慎重に考え、病院の経験を「人間らしくする」ことを真剣に考えています。
審査員は、能力や年齢を問わず誰にもある複雑な状況に対応するとともに病院職員も等しく支えるホリスティックなソリューションの好例としてこの応募作品として歓迎しました。
この補聴器には一連の革新的デザイン改良が生かされています。小型電池の交換の必要がなくなるとともに、使いやすいリモコンになりました。取り扱いやお手入れも簡単になりました。突発音や風雑音は自動的に抑制されます。以上の機能と処理の改善が一体となって優れたユーザー体験を保証します。
審査員はこの応募作品の利用者重視の取り組みを高く評価するとともに、ここから待望の補聴器の技術・デザイン革命へと続き、補聴器が消費者向け高品質音声器機に近づくことを希望しています。
多くの人にとって病気や薬物治療に伴う抜け毛は心の傷となる経験ですが、「医療用ウィッグ」には共通規格がなく、素材や見た目に医学的・心理的な問題があります。この製品はディテールや見た目にこだわって天然素材を組み合わせ、こうした問題を解決するために作られたものです。利用者の調査をもとに開発されました。
審査員は、オーガニック素材を使用したこと、そして疾病管理で美感性の果たす役割に注目したことを歓迎しました。また、それに伴い、寄贈された人毛を使って毛の抜けた子どもに寄贈するウィッグを作る意識向上プログラムも高く評価しました。
日本の農業は、後継者不足、そして技と技術の世代間継承がうまく行われていないという大きな課題に直面しています。富士通は、知識と経験を収集し伝えるとともに、農業のプロセスと操作の管理・時間調節を改善するために考案されたクラウド対応型専用サービスでこの課題に取り組みました。
審査員は、クロスプラットフォームのグラフィックインターフェイスをもとに、実演実験および利用者との協議を重ねてできた実用的なソフトウェアを使い、使いやすいサービスを実現した富士通を高く評価しました。
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