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住空間プロジェクト

2013.04.10掲載

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小泉しをり主査

小泉しをり主査

本年度は、大きく2つの活動をして参りました。
1つ目が、毎年継続して行っている「新空間視察」です。UDの先進事例を視察し、好事例を収集して情報発信を行っています。
2つ目が本年度の大きな活動となりました「東日本大震災における仮設住宅調査」です。震災発生後より、住空間PJで取り組めることはないか検討し、仮設住宅にテーマをあてて活動してまいりました。
本日は主にこのテーマについてご報告いたします。



活動テーマ「UDプラス」の考え方


UDプラスのコンセプト概念図

これは、UDプラスのコンセプトを図にしたものです。縦軸が心理面の軸、横軸が身体面の軸です。段差を無くしたり、少ない力で使えたり、判りやすい表示にしたりと、生活する上での様々なバリアーやストレスといったマイナスの部分をゼロにしていく活動をUDの基本とすると、身体的、心理的に適正な負荷や刺激を与えることでただ使いやすいだけで無く「使って楽しい」、さらには、心身の機能の低下を防ぐ、機能を向上させる、といった快感や達成感を追求する新たな視点を、私たちはUDプラスと呼び、研究を進めています。



東日本大震災における仮設住宅調査

住まいは生活の基本となる場所であり、今回の災害のように住まいが失われる事態が起こると、生活の場は緊急的な措置としての避難所⇒生活を再建するまでの仮の住まいと位置付けられる仮設住宅⇒復興住宅の流れに沿って推移します。
私たちは災害時の住まいのあり方として、特に「仮設住宅」に着目し、様々な事例を収集することから始めました。


事例収集活動

これは仮説住宅に関する事例を収集した結果です。住空間PJに所属するメンバーは住宅関連やメーカーやゼネコン、電機メーカーや設計事務所、個人会員まで多岐にわたりますので、各メンバーの多様な視点から様々な取り組みが紹介されました。
収集した事例の中には、TVや新聞などでも取り上げられるような先進的な事例も含まれますが、それらはごく一部にしか過ぎないことも分かってきました。
2012年5月には、仮設住宅の気付きワークショップを開催しました。
また、2012年8月には、ダイバーシティー研究所の田村先生を囲んでの仮設住宅勉強会を実施しました。

その結果、以下のような着目点が浮かび上がってきました。


ヒアリング項目

これらを踏まえて、9月には仮設住宅の住民の方々にご協力をいただき、「これからの仮設住宅を考える」ためのヒアリング調査を実施しました。
対象は宮城県名取市美田園第二団地と名取市箱塚屋敷団地福島県いわき市のいわきニュータウンです。



ヒアリングからの気付き

1. 駐車場または道路と住戸の関係について

高齢の住人の方から、夜中に隣でドアを閉める音に驚く、駐車場ではない場所、部屋の近くに駐車するので救急車が来たとき困った、駐車場の車止めにつまづいてすでに3人ほど怪我人が出ている、など、現地では一家に一台ではなく、一人一台と言われるほど自動車が必需品であるだけに、現地事情に応じた配慮が必要だと感じました。

2. 住戸と住戸の関係について

住宅の玄関は向かい合う住宅の裏窓と通路を挟んで向き合っているのですが、親しい間柄同士だと、通路を挟んで井戸端会議で話が弾むなど路地裏的な使われ方をしている事例もありました。
また、近隣の音については、TVの音より人の声が気になる、玄関が隣合わせだと、どちらの家にきた来訪者が分からないといった声もあり、コミュニケーションとプライバシーの両立が課題だと感じました。

3. 住戸内の間取りについて

洗濯について、干す場所が足りない、洗濯機置き場と浴室が離れており、お風呂の残り湯が使えない、掃き出し窓がないと、玄関からぐるっとまわる必要がある、などの意見がでました。
窓については、管理者の方から腰窓だと避難の際に、外から救出するのが困難なので、安全面からも掃き出し窓を付けてほしい、との声も聞かれました。
浴室は、入口や浴槽の段差をまたぐのが大変、ユニットバスに慣れないので、浴槽の中でシャワーで身体を洗うのは馴染まない、身体は浴槽の外で洗いたいので、フックを追加したなどの意見がでました。
基本的な安全・安心の確保が必要とされていることが分かります。

4. 共有スペースについて

集会所や広場が、コミュニケーションや気分転換の場となっている、マッサージチェアや菜園・花壇などが、集会所や広場に出かけたくなるきっかけとして機能している。などの事例が見られました。
日常生活の一部として「お茶会」などに参加することで、身体機能を維持する効用があることは、まさに、UDプラスの事例といえます。

5. その他

駅までのバスの便が悪い、復興に時間がかかる、人それぞれに立場が違う、などの意見が出されました。
建設地の状況に応じて、交通の便を確保するなどの対応が必要となることや、入居の際に元のコミュニティをどう残せるかが課題になることが分かりました。
また、仮設住宅の期限は原則として「2年」ですが、復興にはまだまだ時間がかかる現状があります。



ヒアリング項目別のまとめと対策


ヒアリング項目別のまとめと対策

項目別のまとめを、3つのキーワードで分類しました。

1. 「Basic UD(ベーシックUD)」

「基本のUD」を満たすことで、安全・安心の確保につながります。「基本のUD」は、物理的にハードで解決できる課題が多いのですが、限られた面積・費用との調整が必要です。

2. 「UDプラス」

住戸と住戸の関係や、共有スペースについては、コミュニティづくりやコミュニケーションデザインの手法が必要になってきます。⇒人と人とのつながりを確保し、孤立者をださないことが大きな目的です。

3. 「エリア配慮」

今回の被災地は、断熱仕様や雪に対する配慮が必要となる寒冷地でした。また、車が一人一台必要とされるようなエリアです。
このような地域事情に応じた配慮には行政や地域に大きな役割が求められます。



今後の課題

もしもの時のために、事前の取り組みが大事だと考えます。

  1. 基本的なUD配慮の確保として、標準化すべきもの、オプション対応すべきものを事前に明確化しておくこと。
  2. UDプラス視点の配慮を取り入れ、入居者の活動量を維持し、身体機能低下を防止するという視点も考慮しておくこと。
  3. 地域特性への配慮についても検討できるようにしておくこと。
これら3点の配慮すべきポイントを目指すべき方向としてガイドライン化し、地域の事情に応じて、そのガイドラインをカスタマイズして運用できる仕組みをつくり、事前検討と対応策定が可能なよう、平時から備えておくことが肝要だと考えます。



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