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ERA05世界デザイン会議 参加報告

2005.10.13掲載

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IAUD専務理事 川原啓嗣(インダストリアルデザイナー)

4月にロンドンで開催された「INCLUDE 2005」の参加者の一人、ノルウェーデザイン協議会の Jannicke Holen 氏から依頼があり、「ERA05世界デザイン会議」のオスロ・プレコンファレンスにてIAUD代表として講演を行いました。また、会場の一角にIAUDの展示コーナーを設け、会員企業のUD商品を紹介しましたのでご報告いたします。

「ERA05世界デザイン会議」は、9月22日から24日までの間、ノルウェーのオスロとスウェーデンのイェーテボリ、そしてフィンランドのヘルシンキの3都市にてプレコンファレンスを同時に開催し、26日から28日までの間にデンマークのコペンハーゲンでメインコングレスを開催するという構成になっている。従って、3都市のプレコンフェレンスに参加した人々は、続いて飛行機や船でコペンハーゲンに集まり、メインコングレスで一堂に会することになる。


【写真1】港町オスロの風景。遠方に開会式が行われた市庁舎が見える

「Design without Borders(境界の無いデザイン)」のテーマを掲げたオスロでは、22日夕方の開会式で幕が開かれた。会場はノーベル賞授賞式の会場として有名なオスロ市庁舎ホールだ。ノルウェーの画家が描いた大壁画や巨大なタペストリーに囲まれた壮大なホールで、市長自ら歓迎の挨拶を披露し、ノルウェーデザイン協議会理事長の挨拶、そして乾杯、レセプションと続く。久しぶりの再会に固く握手をしたり、肩を抱きあったり、また互いに自己紹介を交わしながら、会話を楽しむ。途中、ホール2階の各部屋を巡回するツアーがスタートするというので足早に一団に紛れ込む。市の職員のガイドに導かれ、「叫び」で有名なムンクなどが描いた絵画を次から次へと鑑賞する得難い機会に恵まれた。


【写真2】オスロ市庁舎でのレセプション

2日目は3つの会場に分かれて、それぞれのセミナーが開かれた。「Design for All」セミナーの会場はオスロ氏の中心部からトラム(市電)で10分くらいの位置にあるノルウェーデザイン協議会だ。23日の午前と午後を通じて、RCAのロジャー・コールマン教授、OXO社長のアレックス・リー氏、そしてユニヴァーサルデザイン・ハンドブックの編集者として著名なウォルフガング・プレイザー教授など計6名が代わる代わる、それぞれの分野のプレゼンテーションを披露した。聴衆の多くはデザイナーだったが、ビジネス関係者、そしてジャーナリストも混じっていた。

私のプレゼンテーションは、IAUDの会員企業からご提供いただいたPRムービーやコマーシャルフィルムを中心に構成していたので、恐らく初めて見るものばかりで、大変興味深く受け取られたようだ。Q&Aタイムでは、「互いに競争している企業同士が共同で問題解決にあたっていることが信じられない。135社も集まって、一体、何をやろうとしているのか。真の目的は何か。」といった率直な質問が出された。北欧の人々にはIAUDの存在自体が理解し難い驚異として映ったようだ。

3日目に博物館や美術館巡りを行った。オスロはトラム、連結バスやタクシーなど交通機関も発達しているので、旅行者には大変便利だが、ほとんどの名所を歩いて回れるほど、コンパクトにまとまったヒューマンスケールの街だ。意外だったのは、博物館や美術館の警備係がすべて女性だったことだ。聞けば、子どもを持つ母親の90%は職に就いており、そのほとんどが託児所に子どもを預けているとのこと。社会制度やインフラが整備されていなくては不可能と思われるが、こと女性の社会進出に関しては、日本はとても遅れているのを痛感する。人々の意識にも大きな差があるようだ。

24日の夕方には豪華客船のフェリーでオスロを発ち、コペンハーゲンに向かう。乗客はデッキに出てビールを飲みながら陽が落ちるまでフィヨルドの景色を眺めていた。船内にはいくつものレストランや免税店、そして映画館やプールなどもある。ビュッフェ形式(これが本当のヴァイキング)のディナーを腹いっぱい満喫し、眠りについた。

翌朝9時にコペンハーゲンに到着。市の中心部にあるチボリ公園の横に位置するデンマーク・デザインセンターで、メインコングレスの開会式とレセプションが行われた。ICSID、ICOGRADA、そしてIFIの会長らと共にデンマーク文化省の大臣も歓迎の挨拶を行う。日本からツアーで参加した人々も多く、中には元ICSID会長の栄久庵憲司氏や名古屋国際デザインセンターの木村一男氏の姿も見えた。


【写真3】メインコングレス開会式会場のコペンハーゲンのデンマークデザインセンター

2日目の26日からは、市の中心部から南の方へメトロで30分ほど離れたベラセンターへ会場を移して行われた。プレナリーセッションの後、ID、グラフィック、そしてインテリアのそれぞれの分野に分かれてパラレル・セッションが行われた。 27日はロジャー・コールマン教授やリオの国際会議にも参加していたスペインのDesign for All Foundation代表のフランシス・アラゴール氏らの「新時代における社会の変化:デザインと人口統計学的潮流」と題するセッションが開かれた。同セッションで披露されたVOLVOのYCCのプレゼンテーションがとても印象的だった。YCCとは、YOUR CONCEPT CARの頭文字で、VOLVOの女性デザイナー9名のプロジェクトとして、女性が欲しいと思う車をデザインしたとのこと。ガルウイングの大変スタイリッシュな車であり、ドアが跳ね上がると同時にシル(敷居の段差)が外に倒れ出ることで乗降が容易になる。十分にユニヴァーサルデザインの一つの解ともいえる提案であった。


【写真4】メインコングレスにはデンマーク皇太子も出席されていた

28日は市内中心部のいくつかの会場に分かれ、知的財産権やデザインマネジメント、デザイン教育など、それぞれのテーマごとの議論が交わされた。私はデザインマネジメントのセッションに参加したが、日本で議論されていると同様の問題が焦点となっており、悩みは洋の東西であまり変わらないとの印象を持った。ただし、当然ながら、デンマーク産業の育成、あるいはヨーロッパの競争力をデザインにより、どのように高めていくかといった点が強調されていた。

ノルウェー、デンマーク、そしてスウェーデンやフィンランドのいわゆるスカンジナビア諸国のデザインに共通するのは、質の高い木製の家具やスチール、またはガラスやセラミックのテーブルウェアといった自然素材を活用したエコロジカルデザイン、そして機能主義的なモダンデザインである。一方で、ノーマライゼーションの発祥の地でもあるノルウェーを初めとして、北欧は高福祉政策と女性の社会進出で一時代、確かに世界をリードしていた。私がデザイン学生だった1970年代の日本の社会は明らかに北欧を一つのモデルとしていたのだ。そして、30年後の現在の北欧の地で、私はそれらの融合した新たなユニヴァーサルデザインのイメージが現れるような予感をかすかに感じていた。

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