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IAUD特別公開セミナー開催報告(3)

2005.03.28掲載

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パトリシア・ムーア氏講演 「UD・世界の潮流と課題」(要約)


1. 「あの人たち」のためのデザイン

26歳の時、私はニューヨークのレイモンド・ローウィーのデザイン事務所で働いていました。世界最大のデザイン事務所で働くのはとてもうれしかった反面、一方でとても悲しかったのです。なぜかというと、高齢者や、車いす使用者、あるいは目や耳の不自由な人たちのためにデザインするチャンスが何度か巡ってきたのに、いつもそのチャンスを生かすことができなかったからです。若いデザイナーだった私は、先輩たちから「あの人たち」は重要な人たちではないよ、ビジネスにならないからね、と言われたのです。「あの人たち」は、我々のデザインの対象ではない、と何度聞かされたことか。そのたびに私の心は、千々に乱れました。「あの人たち」とは、私の祖父母のように思っていた人たちです。私は祖父母が大好きでした。少女時代から一緒に暮らしており、祖父母が次第に満足な生活ができなくなっていくのを見て育っていったのです。


デザインが悪いために、祖父母はその残存能力さえ発揮できない。デザイナーたる私たちが、「あの人たち」のために役に立つような商品をデザインしなかったからです。「あの人たち」が、正当に生きられる場所を作ってあげなかったからです。消費者としてさえ、認識されなかったのです。私は、いつもそのことに心を痛めておりました。そして、生活が阻害されてしまったのは、別に消費者が悪いのではなく、デザイナーの失敗であり、罪ではないかと気づき始めたのです。1970年代のことでした。


そんな時、天の声が私の心に囁いたのです。そして、私は老女に変装することを決めました。26歳の時、私は85歳の老女として暮らし、人は晩年どういう生活を営むのかを経験しました。消費者としての欲求はたくさんあったのに、85歳の私のニーズを満たしてくれる、私の体にやさしい商品というのはとても少なかったのです。その時につくづく、何かがおかしいと感じました。今日もその気持ちは変わりません。


写真3:会場内の様子


あの時期、一人の女性として、友情と愛を与えられました。子供たちは、一緒に遊ぼうと言ってくれました。ベンチで隣に座った年配の人たちからは優しく話しかけられました。時には紳士が扉を開けて待っていてくれたこともありました。しかし、逆に目の前で扉をピシャッと閉められ、まるで存在しないものかのように扱われたこともありました。そして、最悪だったのは、ニューヨークの街路で、若い人たちに、殴られ、蹴られ、血まみれで放置されたことです。


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講演要約
1. 「あの人たち」のためのデザイン
2. デザインが可能にするもの
3. デザイナーの役割
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