2024.10.05
最新記事
2021.03.04
「第8回国際ユニヴァーサルデザイン会議2021 in ザ・クラウド」開催速報
2021.02.11
第8回国際ユニヴァーサルデザイン会議 2021 in ザ・クラウド 開催のご案内
2019.06.25
2012.04.10掲載
増田寛也
(野村総合研究所顧問/東京大学公共政策大学院客員教授/元総務大臣/前岩手県知事)
東日本大震災が、安全、安心ということをもう1度、改めて考えるきっかけになりました。
安全と安心は概念が全く違います。安全は、数値できちんと科学的に表されるべきものです。安心は、極めて主観的な概念です。安全を包み込むような、もっと広がりのあるものが、安心、あるいは安心感につながります。
日本では、安全、安心ということが、世界の中で最もよく守られており、最高の規律を持っていると言われていました。
しかし、東日本大震災でそれがもろくも崩れさり、安心してこの国に住めるのかという言葉が飛び交う状況になっています。
被災地の復興を進める中で、私は5つの課題があると思っています。
1点目は住まいです。原則は高台移転だと思います。下の低い土地には、もう家が建たないような措置をとらなければ、再び被害を繰り返すでしょう。
2点目は、雇用の確保と元の職場の再生です。今、仕事がなく生活に困っている方が大勢います。
3点目は、最近問題になっている瓦礫の処理。途方もない量になっており、現地ですべては処理できません。仮置き場は公営住宅など公的に利用する土地のため、まちづくりも進みません。
4点目は福島の復興再生。必ずあの美しい福島を元に戻す覚悟で、除染作業を成し遂げなければなりません。
最後は多くの被災者について。いまだに仮設住宅に住んでいる40万人近くの人々を、これから長期にわたってきちんとしたケアをしないといけない。この5点が必要だと思います。
復興には、誰しも経験したことのない作業を行っていなければなりません。そのためには、前例にとらわれるのではなく、想像力を駆使して、1つ1つ解決していかなければいけません。
さらに、世界との関係で、復興を考えなければなりません。貧しい国も含め150ヵ国以上の国から支援をいただいています。国内事情だけをみて復興させるのではなく、海外からの支援にもきちんと応えられるよう、大きな世界観を持って復興をしていかなければなりません。
昨年の世相を表す漢字は「絆」でした。一人ひとりがつながり、家族や地域がつながり、コミュニティとしての機能が強く発揮される。それがこの震災の復興の役に立ちました。
私は今、大学で教えています。今回、被災地で多くの若者がボランティアで復興に携わりました。彼らは、避難場所では不思議なあたたかさが見られた、そして、人が自然に持っている一種の熱さも感じることができたと言っています。それは、授業ではまず得られない経験です。
若い人が多くのつながりや絆を感じてもらえたならば、これからの日本の将来にとってプラスになっていくでしょう。
UDはデザイン性より、互いを認め合い、暮らしやすい地域を作っていく考え方を共有できるかどうかだと思います。
今秋の国際UD会議では、人と人が互いに認め合い、同じ場所に住んでいるということを改めて確認し、その上で、もう一度安全・安心の意味を問い直し、確認し合う機会だと思います。
安全・安心は、黙っていて得られるものではなく、我々が努力をして積み上げるものです。一瞬たりとも油断をすれば、もろく崩れ去ってしまいます。
今回、もう一度原点にもどって基本を考えることが実り多い成果をもたらすことを期待したいと思います。