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IAUDアウォード2013 審査講評

2013.11.22掲載

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審査観点

主な審査基準は、「UD理念が提示されているか、またそれを達成するためにきちんと提案または実施されている活動か」です。UD理念の提示や具体的なアイデアの提案、あるいは活動の実践等を踏まえて、総合的に審査・評価しました。また、提出された資料も審査の対象として重視しました。
なお、審査観点は以下のとおりです。

  1. サステイナブルとユニヴァーサル:持続可能な共生社会創造のための理念と実践
  2. 多様性と包摂性:伝統、文化、生活様式、そして人間の多様性を理解し、少数を排除せず、積極的に包含することで、質的に豊かで幸福な暮らしを実現する
  3. 安全・安心な社会:人権を守り人間性を尊重した社会の仕組み、制度、モラルの構築
  4. 自発的、かつ持続的な対話:企業・行政・研究機関・NPO、そして生活者間の継続的な交流、及び関係の構築
  5. 世代を超えた知恵と技の継承:UDの普及啓発により次世代を担う人材を育成する



IAUDアウォード2013審査委員会

審査委員長:ロジャー・コールマン(英国王立芸術大学院名誉教授)
副委員長:益田文和(東京造形大学教授)
審査委員:フランセスク・アラガイ(スペイン デザインフォーオール財団代表)
同:ヴァレリー・フレッチャー(米国人間中心デザイン研究所所長)
同:荒井利春(金沢美術工芸大学名誉教授)
同:川原啓嗣(名古屋学芸大学教授/IAUD専務理事)



IAUDアウォード2013審査委員長からのメッセージ

英国王立芸術大学院名誉教授 ロジャー・コールマン


審査委員長のコールマン氏(2012年10月撮影)

私は前回に続き再びIAUDアウォード審査委員長として、UDの新しい方向性を打ち出す魅力的な取り組みや素晴らしい製品を審査する特権を与えられ、とても光栄に思っています。

日本にはビジネスの場や国民意識にUDが深く根付いています。UD社会を構築するために、日本人は優先事項やデザインの課題に意欲的に取り組む卓越した覚悟と意思を持っていることがわかりました。

今回は日本国内だけでなく、インドネシア、米国、カナダ、オーストラリアからも応募があり、国際的視点で審査できました。審査員には私(英国王立芸術大学院名誉教授 ロジャー・コールマン)の他、米国人間中心デザイン研究所代表のヴァレリー・フレッチャー氏、スペイン デザインフォーオール財団代表のフランセスク・アラガイ氏、金沢美術工芸大学名誉教授の荒井利春氏、東京造形大学教授の益田文和氏、名古屋学芸大学大学院教授で国際ユニヴァーサルデザイン協議会専務理事の川原啓嗣氏の6名です。
バックグラウンドや視点が違うにも関わらず、最終的な審査結果は全員一致を得られました。

また、すべてのエントリーには優れた洞察力と技術革新が見受けられ、応募された皆様には深く御礼を申し上げます。
今回は福祉器具からサーヴィスまで、ユーザー主導のデザインプロセスを取り入れたビジネスの開発戦略の実例となるような、ユニヴァーサルでインクルーシヴなデザインアプローチが多くありました。特に今回は、多くの実例で証明されているようにUDが将来の重要なビジネスモデルとして、市場の主流商品をターゲットに、力強く新しい革新的なコンセプトを提供できる可能性を秘めていることがはっきりわかりました。

この場で、各受賞者へ講評をお伝えすることは私にとって大きな喜びです。



審査講評

大賞、金賞、銀賞の各講評は、審査委員長からの音声メッセージもお聞きいただけます。

IAUDアウォード受賞の講評はこちら


大賞

株式会社 本田技術研究所
「Honda新型軽乗用車 N-BOX + 車椅子仕様」

柔軟性と適応性があり、少ない労力による車イスの積み込み及びアクセスのしやすさに重点を置いており、革新的で非常によく研究され、軽自動車の再考を実現しています。可能な限り多くのユーザーの要求を満たすために、車のプラットホームから考え直し、メカを極力小さくすることで、居住空間をできるだけ広く確保することに成功しています。デザイン開発のプロセスでは車いす利用者のニーズは優先事項ですが、結果的にあらゆる人々や様々な世代のための自動車となっており、複雑で多様な現代のファミリーライフスタイルに完璧に適合しています。この洗練された車両技術の再考によって、株式会社本田技術研究所は日本だけでなくヨーロッパなど他の主要マーケットにおいても重要な可能性を秘めた新しい自動車の形を作り上げました。

この革新的なコンセプトで、同社はUDが持つビジネスの可能性を実証したと審査員は感じました。同社のデザインチームは開発過程の核心で重度障害のユーザーのライフスタイルを直視し、さらに最大限幅広い消費者のプロファイルを取り込むことで、現代のあらゆる世代のファミリーニーズに対応する車のプラットホームを実現しています。審査員は同社の進化したUDアプリケーションを賞賛し、この新しい事業の大いなる成功を願っています。

一方、審査員は車両の安全基準は高いものの、車両後部に乗車する車いす利用者の安全を向上させる余地はまだあるのではないかと思いました。



公共空間部門 金賞 国土交通省より後援

大田区/株式会社ウチダシステムズ/株式会社クワハタデザインオフィス
「大田区役所本庁舎のスパイラルアップによるユニバーサルデザインの取り組み」

大田区はあらゆる市民や旅行者にとって区政および施設がよりアクセシブルであることを目的として、「おおた未来プラン10年」を実施しており、東京23区内でもUDの推進において傑出しています。これは継続的な改善プロセスの一環で、まずは大田区役所本庁舎の改修が実証プロジェクトの多様な障害当事者と共同でプロセスを構築していくモデルケースとなりました。このプランは、2009年に案内マップや誘導ブロックの導入など、大田区役所本庁舎のサインの全面改修からスタートし、多様な障害当事者による検証により、高度なアクセシビリティのある施設が完成しました。

審査員は、このような前向きなプランに着手した大田区と株式会社ウチダシステムズ、そして株式会社クワハタデザインオフィスを高く評価しました。また、ポジティブで継続的に改良しているこの取り組みは、審査員にとって印象的なコンセプトでした。今後、さらに視覚、聴覚、触覚など多様な感覚で利用可能な行先案内情報表示の導入の検討をされることを期待しています。



事業戦略部門 金賞

三菱電機株式会社/パナソニック株式会社
「視覚障がい者のQOL(Quality of Life)向上を目指した音声読み上げ商品の普及活動 ~競合企業によるユニヴァーサルデザイン理念に基づく垣根を越えた取り組み~」

家庭用テレビにおける音声ガイド機能の利点を実証するために、競合企業2社が取り組んだ特別なコラボレーションです。この取り組みは、両社のユニヴァーサルデザイン及び社会貢献活動での業績をベースにして、視覚障害者に便利な技術を導入した商品体験会の実施を中心としています。体験会は2013年3月までに113会場で実施し、5,672名が参加した大規模なもので、さらに他企業の参加も推奨している「音声読み上げポータルサイト」も設立しています。また、テレビだけでなく音声読み上げ機能がついた他の家電商品までジャンルを広げて推進しています。

家庭用情報機器への音声読み上げ機能の搭載は、視覚だけでなく移動に制限のある障害者など多様な人々にとって便利であり、商品やサーヴィスのアクセシビリティを拡大する重要な手段です。三菱電機株式会社とパナソニック株式会社が、簡単には情報にアクセスできない人々に有益となるよう、ビジネスの障壁を超え共同で取り組んだことに、審査員は深く感銘を受けました。

この取り組みはインクルーシヴな考え方の模範であり、今後のIAUDにとって重要です。情報や専門知識を共有し、共にUD社会を実現する、このような実例を、他の企業にも大いに推奨します。



交通部門 金賞

三菱電機株式会社
「トレインビジョン」

この、よく研究され、非常にユーザーフレンドリーなシステムは、2006年に施行された「バリアフリー新法」に準じています。乗車中の列車に関する情報や路線図、プラットホームとの位置関係など様々な情報を聴覚障害者だけでなく外国人旅行客など幅広いユーザーに対して、リアルタイムに提供する列車内映像情報システムです。この製品の普及が進んだ今でも、三菱電機株式会社はデザインを改良し提供する情報の範囲を拡大するために、ユーザーのニーズや好みを調査し検討しています。また、適切なフォントの開発やLCD技術の導入にも取り組んでいます。審査員は、シンプルで有効なシステムと同社の継続的な改善に特に感銘を受けました。

スペイン、英国、米国の審査員にとって、日本の鉄道ネットワークは非常にアクセシビリティが高く、ユーザーにとって使い易いものであり、日本は友好的で喜んで人を迎え入れる国という印象を反映しています。
審査員はさらに同社に、日本の法律に準じるだけでなく、今後は真に世界をリードする、インクルーシヴな交通映像情報システムとすべく、改良を進めていくよう期待しています。



未来世代部門 金賞

積水ハウス株式会社
「ドクターユニバーサルデザイン授業 ~小学校での取り組み~」

この取り組みは、UDについて学び、UDの意味を理解し、UD視点から商品やサーヴィスを評価する能力を高めるための機会を人々に提供するという、積水ハウス株式会社の長年のプログラムの一環です。UDへの意識を高め、それをベースに購入を決定する能力を高めることを目的としています。初等教育においてUDへの理解を深め、生徒にUD製品を実際に体験させることで、UD製品を評価する能力を養うことが狙いです。また、社会の多様性への意識を高め、インクルーシヴな社会を達成するためのUDの重要な役割を理解してもらうことでもあります。

審査員は、この取り組みは同社の他のエントリーである「スマートUD」の提案と多くの共通点があると感じましたが、次世代教育を重視している姿勢がより重要であると考えました。また、審査員はこの取り組みを「実証プロジェクト」とし、金賞を授与することで、大きな可能性を秘めたこの試みを、同社が次世代への投資として本格的に展開していくことと信じています。



コミュニケーションデザイン部門 金賞

株式会社プラスヴォイス
「UD手書き」

スマートフォンやタブレットコンピューターなど身近なIT端末を活用した、非常にシンプルでエレガントな効果の高いコミュニケーションツールです。「UD手書き」は、聴覚障害者と健聴者との様々な状況での「会話」を容易にしました。音声認識技術と、ユーザーに使い易い手動による文字入力を一緒にすることで、すぐに画面上で会話をすることができます。音声認識技術により、テキスト入力に慣れていない聴覚障害のない人々にとっても、コミュニケーションがより楽になりました。さらに、顧客サーヴィスの場では特に重要であり、スマート携帯端末を使った、筆談によるコミュニケーションが一般化する第一歩となるでしょう。

審査員は、既製の携帯端末とシンプルなインターフェイスというどこにでもある技術を使用することで、慢性的なコミュニケーションの問題を解決することに感銘を受けました。

開発過程においてはユーザーグループとの幅広い調査が行われており、小さな会社によって開発され、現在も使用できる範囲には制限がありますが、この取り組みの普及に必要な資金を確保し、すべてのスマートフォンやタブレットコンピューター、さらにはあらゆる言語でも同様に機能できるようになれば、世界市場でも成功すると確信しています。



医療福祉部門 金賞

積水ホームテクノ株式会社
「Wells縦置き浴槽ユニットバスの開発」

医療福祉部門には、様々な方法で特別なニーズに対応した製品やサーヴィスも含まれます。「Wells縦置き浴槽ユニットバス」は、介護が必要なユーザーにできるだけ自立をうながし、介助者の負担を軽減することで、入浴が両者にとって快適なものとなることを重視しています。広範囲な研究により、家庭で使えるシンプルでフレキシブルなデザインになっており、身体能力や入浴の好みに適応できます。

用途は広いがコンパクトな浴槽になるようデザインされており、狭いスペースや住居での設置が可能である、と審査員の意見が一致しました。

また、これは本質的には入浴を最大限快適にし、同時に介助者の負担を最小限に抑えるよう配慮された介護製品ですが、ただの身体的ニーズだけでなく、自尊心を与え、できるだけ自立をうながしながら介助ができるという大切な心理的ニーズにも対応しており、高齢化社会にとってますます重要になっています。



公共空間部門 銀賞 国土交通省より後援

株式会社岡村製作所
「スーパーマーケットにおけるチェックアウトカウンターのUD研究および提案」

スーパーマーケットではこれまで様々な方法で顧客に利用しやすいデザインがされていますが、チェックアウトに関してはいまだにお客様やスタッフにとって、使いにくいままになっています。岡村製作所は幅広く詳細な研究を重ねながら、重い買い物かごへの負担軽減やチェックアウトプロセスの簡素化、すべてのユーザーにとって使い易いことに焦点を当て、安全性と快適性を最大限配慮した4つの提案をしています。

スーパーマーケットにおけるチェックアウトを研究開発し提案しているのは同社だけでありませんが、このエントリーはお客様やスタッフ、店舗側への利点も配慮しており、授賞に至りました。審査員は同社にはその点を認識していただき、提案デザインの速やかな実施を期待しています。



未来世代部門 銀賞

積水ハウス株式会社
「子どものためのスマートユニバーサルデザイン」

住まいでの子どもの安全は多くの人にとって非常に現実的な関心事項です。積水ハウス株式会社は親と子どもをターゲットにしたこの教育イニシアティヴを通じて、親と子どもが家庭での危険性を理解し、子どもがいかに弱いものであるかを認識できるよう促進しています。さらに、この実践的プログラムでは、子どもが遊びながら自ら成長できることに重点を置いており、活発な子どもたちにとって安全な住まい環境が必要だとしています。

子どもの自立と成長を重視している点が審査員には印象的でした。特に、子どもが自ら安全性を意識し責任を持つこと、子どもたちへのUDの理解を早い時期に促進することは重要なアイデアです。




未来世代部門 銀賞

教育出版株式会社
「書籍『考えよう 学校のカラーユニバーサルデザイン』」

学校での教科書はUDの基準に沿っているかもしれませんが、色の使い方について多くの色弱の生徒たちが抱えている問題については見過ごされており、このエントリーは、なかなか理解されない学校での課題を改善しようと試みています。その対策として、教育出版株式会社はこれらの問題を容易に理解し、対策を提案する書籍を両親や教師、教育機関向けに出版しました。
審査員は、これを重要なスタートと考えており、教育システムでこのような問題に対する意識が高まり、継続的な取り組みになることを期待しています。



コミュニケーションデザイン部門 銀賞

パナソニック株式会社
「音声読み上げ機能搭載TVのグローバル展開」

音声読み上げ機能搭載テレビを開発しているのはパナソニック株式会社だけではありませんが、同社はこの技術の開発と普及においてリーダーシップを取っており、国際的にも認知されています。この技術は視覚障害者だけではなく、リモートコントロールの操作が苦手な様々なユーザーにも便利です。同社はこの取り組みの国際化にも成功しており、UDの持つビジネス市場での可能性を示しています。

情報にアクセスしづらく、日常生活用品が使いにくいという多くの人々が抱える問題に対し、同社は革新的でユーザーフレンドリーな方法で解決しており、審査員は称賛してします。この技術開発および三菱電機株式会社と共同で普及したことは、情報技術のアクセシビリティ向上の模範となっています。



コミュニケーションデザイン部門 銀賞

大日本印刷株式会社/NPO法人カラ―ユニバーサルデザイン機構/株式会社DNPメディアクリエイト
「カラ―ユニバーサルデザイン・マネジメントシステム認証(CUDMS認証)の開発および事業者の認定」

カラ―ユニバーサルデザイン機構は、印刷物に使用される色がCUDに適合するかどうか簡単にわかるガイドラインと製品認定システム、そして認証マークを開発しました。認定の需要は高く、より効率的でフレキシブルなアプローチが必要だったため、同機構は大日本印刷株式会社と共同で、個々の製品レベルでなく組織レベルでCUDを管理する認証システムを開発しました。

審査員は両者の重要で多大なる貢献を称賛しますが、標準化の結果、コミュニケーションデザインにおける革新性と美的品質の欠落に至ることがないよう考慮してほしいと考えています。



医療福祉部門 銀賞

Moore Design Associates
「Universal Physical Medicine & Rehabilitation [PM+R] Environments for All Ages & Abilities」

けがや病気からの回復にとって、リハビリテーションは大切であり、その手法も大きく改善されていますが、臨床施設での一般的な用具を使用したエクササイズは退屈で、続けることは難しいものです。パトリシアムーア氏は、臨床センターに実際の生活環境の要素を取り入れた革新的な設備を導入して、患者が日常生活動作を行ないやすいようにしました。これにより、患者の社会復帰を早めると共にスタッフの満足度も向上させ、地元企業にはスポンサーの機会を提供し、地域社会でのオーナーシップ意識も促進しています。

同氏は現在、負傷した軍人へのリハビリテーションにこのアプローチを取り入れており、審査員は、次回のIAUDの国際会議で、この取り組みについて同氏からより詳細な話を聞くことを期待しています。



ソーシャルデザイン部門 銀賞

パナソニック株式会社
「チャージ機能付きソーラーランタン BG-BL03」

この太陽電池充電機能付きポータブルランプは、特に無電化地域に住む人々を対象にデザインされており、煙の出ない携帯できる「あかり」として、また携帯電話など小型電気機器の充電器として利用できます。炎と煙からの危険を防ぎ、照明コストを削減し、夜間での女性や子供たちへの安全性の確保にも役立っています。パナソニック株式会社はCSRプログラムの一環として、この商品をアジアやアフリカのコミュニティに10万台を寄付する予定です。また、日本国内でも自然災害時に利用できるようにしています。

このランタンは、環境的、社会的、そして経済的持続可能性にも非常に優れたモデルであり、審査員は同社の取り組みを称賛しています。世界人口の20%が電気のない生活をしており、このランタンの需要は非常に高く、ビジネス市場での可能性も大きいので、同社にはこの商品がぜひ発展途上国で販売できるよう期待しています。



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