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IAUDアウォード2012 審査および授賞理由

2012.11.22掲載

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IAUDアウォード2012審査委員長
英国王立芸術大学院名誉教授 ロジャー・コールマン

私は、IAUDアウォード審査委員長としてUDの新しい方向性を打ち出す魅力的な取り組みや素晴らしい製品を審査する特権を与えられました。これらの受賞作は現在の不確実性の時代にあって、我々の関心事となっている広範な国際的課題や社会の優先事項に取り組むにあたり、日本企業や個人が持つ卓越した覚悟や意思を示しています。

審査員団として私やヴァレリー・フレッチャー、荒井利春、益田文和、フランセスク・アラガイ、IAUDから川原啓嗣の各氏が3つの大陸から選ばれ、応募作品を完全に国際的視野から捉えることができました。お互いに物理的には会うことはできませんでしたが、各々が全作品をレヴューし、スカイプを用いたヴィデオ会議を通して集まって、書類やヴィジュアルの提出物を閲覧・共有し深く議論することができました。我々のバックグラウンドや考え方の違いにもかかわらず、採決において全応募作品が示している真摯な洞察と革新性に対する深い感謝の念で全員一致をみたことは特筆に価します。そして、各受賞者へ授賞理由をお伝えすることは大きな喜びです。



特別賞/寬仁親王賞

株式会社リコー:株式会社リコーにおける東日本大震災被災地復興支援活動

リコーは重要な国際社会のニーズに直面し、従業員の参加と彼らへの権限付与に基づいて長期のCSRプログラムを極めて高い水準で実行しました。被災地復興支援プログラムが、地域コミュニティを支援しサーヴィスを提供するという実践的な活動のために作られましたが、単に雇用の機会を創出したり、専門知識を提供し情報の印刷をするというだけではなく、最も重要なことは失った写真や個人の記録を再び人々と結びつける「セーヴ・ザ・メモリー」プロジェクトを通して精神面で支援したことです。

有事の際の人々の身体的、精神的ニーズにしっかりと照準をあわせ、また社員の社会貢献への志を支援するというこの応募作品は、CSR分野で画期的であると審査員は考えました。また災害状況下で専門知識が文書や写真の再生に重要な役割を担い得ることを認識し、社員にあらゆる種類の役割でヴォランティアとしての権限を与え、また高校生が復興について前向きに考えるよう動機づけるなど、素晴らしい創造性を示したリコーに我々審査員はお祝いを申し上げます。



大賞/経済産業大臣賞

積水ハウス株式会社:納得工房体験型研修とSH-UDマスタープランナー制度によるUD啓発活動

積水ハウスは1991年に英国/ヨーロッパから日本へ生涯住宅という概念を持ち込んだだけでなく、先進的なビジネスでの成功で著しく価値を高めました。早くから生涯住宅という考えとユニヴァーサルデザインを融合させることで、この二つの概念を美的面でもユーザー認知度の点でもより高度な水準に持ってゆき、積水ハウスの製品や考えを真にインクルーシヴに、まさに全ての人々にとってより良いデザインにしています。これは特別に作られた住宅展示での実践的な経験や訓練により支えられ、一般向けや専門家向け教育プログラムを通して普及しています。

ユニヴァーサルデザインの考えを全社の縦横に取り入れて高度に成功したビジネスを築き上げ、さらに一般にも専門家にもこのコンセプトを採用するよう推し進め成功しており、積水ハウスはUDの力を未来のビジネスモデルとして立証していると審査員は感じました。

審査員はまた、積水ハウスがこの話をユニヴァーサルデザインのケーススタディとして、ウェブ上で深く掘り下げ、国外と共有することを強く奨励します。それは地球規模の変革として実践的UDの模範となるサクセスストーリーであり、日本で達成された卓越した水準であると考えます。



事業戦略部門 金賞

花王株式会社:ソーシャルインクルージョンを目指した花王の取り組み

花王は1991年に遡って家庭の清掃・洗面用品や包装のデザインを改良し、軽量化、識別性向上などユニヴァーサルデザインに関わった長い実績があります。花王はこの先駆的な事業を築きつつ、今度はテレビコマーシャルに字幕を付けるという取り組みで日本を国際的にベストプラクティスの最前線に位置づけました。

これらは大企業によるユニヴァーサルデザインへの長期的取り組みの素晴らしい例であり、消費財を製造する企業の優れたモデルであると審査員は考えています。本当の意味でのインクルーシヴデザインの改革を通して、花王は障害をもつ人や高齢者の生活を優しく安全なものとすると同時に全てのユーザーに恩恵をもたらすことに成功したのです。



教育部門 金賞

静岡文化芸術大学:デザイン学部におけるユニヴァーサルデザイン教育と一般への普及啓発活動

熱心なスタッフの指導による10年以上に亘る質の高い研究によって、ユニヴァーサルデザインが静岡のあらゆる教育の中心で採用され、それが積み重なって静岡県全体の優先政策となりました。これは教育へ強く影響したばかりでなく、県全体の交通や都市計画分野でユニヴァーサルデザインが効果的に、また見事に実践されています。

このプログラムは、ユニヴァーサルデザインの精神と実践をコミュニティ全体に伝える方法で他の規範となるものであり、静岡文化芸術大学の継続的な関わりはその際立った貢献を国が認めるに相応しいと審査員は信じています。彼らのコミュニティへの関わり、特に若者たちへの関わりは国際的なモデルとして位置すべきものと考えます。



教育部門 銀賞

財団法人自由空間ファンデーション:アジア初の学生を対象としたユニヴァーサルデザイン振興のためのデザインコンテスト「UD AWARD」の開催及びその影響

2006年に最初に開催された台湾UDアウォードは影響力が非常に大きく、台湾の幅広い分野で関心を集め、多数の海外からの参加も含め4000以上の応募がありました。この賞は厳正なプロセスを踏んだもので、優れたアイデアを育みデザイナーからも一般からも注目を集めました。台湾の人々は日本から学び、行政、学会、企業、デザイン、NGOとの素晴らしいUDネットワークが作られつつあります。

世界には多くの類似したUDアウォードの構想がありますが、この財団はUD教育のために非常に高水準の影響力を発揮してきていること、また台湾における状況や期待に大きな変化をもたらしつつあることなどにより、IAUDが台湾の献身と進歩を認めることは適切であると審査員は考えます。



非常時配慮デザイン部門 金賞

パナソニック株式会社:いつもの便利×もしもの備え

パナソニックは、東日本大震災で明らかになった課題に対し会社が確立したUD政策を推進する指針を適用し、非常時における用途も備えた一連の日常使用の製品をデザインしました。5つの製品からなる画期的なセットは、非常時に便利で信頼性の高い照明、情報伝達や電力を供給する製品に対するニーズに応えるものとなっています。

これらは緊急時に特別な利用価値をもつ上に、美的にも機能的にも優れているため日常生活でも有用性が保証され、その結果手元に置かれ、使用法もよく理解され、そしてどんな非常時でもただちに使用できることが重要だと審査員は考えました。これは環境ならびに社会的持続可能性の洗練された協働作用と言えます。パナソニックは両用性のイノベーションにおける世界市場を明確に認めつつ、地震で被災した日本人だけでなく、カンボジアやタンザニアの電気のない地域に、これらの製品を8,000台以上も無償提供したことに審査員はさらに感銘を受けました。



非常時配慮デザイン部門 銀賞

日野自動車株式会社:非常時の電源供給機能を備えた、次世代モビリティ“非接触給電大型ハイブリッドバス”

日野自動車の革新的な技術を見事に実現したことで、単なるバスというものを超えた環境負荷の少ない高水準の車両アクセスが提供されています。特に車両は有事の際の電力供給の役目として十分な量の電力を貯え供給することができ、日常時と非日常時での両用の役割と社会的価値が与えられています。

このバスのデザインは両用性を持つという点で革新的かつ独創的であり、環境に配慮したユニヴァーサルデザインとして世界にも通用する例であると審査員は考えます。



コミュニケーションデザイン部門 金賞

森 直之:ゲーム機等を応用した情報保障スタイルの推進

音声情報や字幕、教育情報のテキスト翻訳や写本を送信するこのソフトウェアシステムは、企業から生まれたのではなくひとりの個人によってもたらされました。これはウィンドウズに特化したシステムを、広く使われている軽量のハンドヘルド機と互換性があるオープンHTML代替物に置き換えます。そして、コスト、重量、強度、また機器の入手性、維持費、距離や動作の制約など、障害のあるユーザーにとって生活を困難にしている現在のシステムに関連したいくつもの問題を取り除いてくれます。この新しいHTMLを使ったシステムは携帯電話でもタブレットでもまた2006年以降のゲーム機でも使え、これらの機器は安価で軽量で非常に頑強です。これは既に実際の使用において有用性が実証され優秀賞も受賞し、東日本大震災後の状況下でも役立っています。

審査員が感銘を受けたのは、聴覚に障害を持つ人にとって重要なテキスト情報を送信する上での課題に対するシンプルで効果的、かつ基本的にオープンなアクセス解決であり、多くの人に恩恵と生活の質向上をもたらすだろうということです。HTMLとよくあるコンパクトな通信機器を利用することで、企業や機関、娯楽の場で字幕や支援情報の提供を促し聴覚に障害のある人だけでなく全ての人にとって利益となるでしょう。



コミュニケーションデザイン部門 銀賞/福岡市長賞

株式会社ラーンズ(ベネッセグループ):「いろはにっぽん 生活応援パック」日本在住外国人のための多言語生活ガイド

日本で生活するのになくてはならないもの、必要なものについて良く作られたやさしいガイドとなっています。このガイドでは、新しい居住者に基本事項や必要条件および日本の習慣などをよく知ってもらうために英語、中国語ならびにポルトガル語を使って表され、図表や判りやすい言葉を用いています。これは日本に住む外国人にとって大変重要な包括的情報を、スマートで簡単で安価に提供するモデルです。

この応募作品は真の必要性を見つけ出して対応し、さらにそれを日本人のおもてなしの精神のなかで実現してきました。これは新規の外国人居住者に大きな自信と心の平安を与え、見習うに値するモデルと審査員は考えます。



プロダクトデザイン部門 金賞

コクヨファニチャー株式会社:センシティブユーザー参加型デザインアプローチ『人々の感性の覚醒を目指す持続的なユニヴァーサルデザイン』

子供連れの母親から高齢者まで、さまざまなユーザーのニーズに万遍なく応え、個人の備品、カバン、さらには盲導犬のためのスペースを提供する、洗練されたきめ細かい公共の座席システムです。外観の良さとユニヴァーサルデザインであるという価値は様々な公共建築物、オフィス、空港、待合所で、またロビー、アトリウムやその他の公共空間や会場での使用に適しています。

本応募作品はユーザーとの協議によるテストと検証を大掛かりに行い、他の模範となる人間中心のユニヴァーサルデザインプロセスを採用していることで審査員の意見が一致しました。このことは2012年に真のインクルーシヴ製品として成功裏に市場に参入し、高い美的価値とユーザーのニーズや好みに対する感性を結び付け、ユニヴァーサルデザインの革新的潜在力を証明する結果となりました。



プロダクトデザイン部門 銀賞

パナソニック株式会社:ダブルヘッドベース・アイロン

アイロンがけの身体への負担を軽減するという願いに後押しされて作られた、昔ながらのアイロンの革新的な見直しです。前後で同じ先端形状をもつアイロンにより手の持ち替えの手間を減らすことで、アイロンがけの効率化に一定の効果をもたらしています。エンドユーザーとの厳密な実験によってこのデザインの包括的な有用性を立証し、一般のユーザーのみならず高齢者および体力や巧緻性が低下した人々に対しても恩恵をもたらしました。

UD思考の革新的な力が進歩的な製品開発に応用された場合に、簡単だが有効に実証されると、審査員はこの応募作品を評価しました。


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