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特集:towards2010「危機と好機の時代に考えること」1/2

2010.05.24掲載

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「towards 2010」は第3回国際ユニヴァーサルデザイン会議2010 in はままつ」の開催に向け、海外の有識者の方から会議への期待や議論すべき課題などについて、IAUDニュースレターの巻頭特集として寄稿していただいたものです。

※このコンテンツはIAUD Newsletter vol.2 第3号(2009年6月号)に掲載されました。
原文(英語版)はこちらをご参照ください。


ごあいさつ

ヴァレリー・フレッチャー
米国インスティテュート・フォー・ヒューマン・センタード・デザイン所長
(旧アダプティブ・エンバイロメンツ)


IAUDの尊敬する仲間たちと考えを分かち合える機会を与えていただき感謝いたします。
私どもの研究所は、1978年にアダプティブ・エンバイロメンツとして設立されましたが、30周年を迎えた2008年秋に改称いたしました。この経緯について若干説明させていただきます。米国では最近、「アダプティブ・エンバイロメンツ」の意味合いが変化しており、障害を持つ人々のために特別に意図されたデザインという限定された概念として誤解されることが多々ありました。補装具を売り込み、デザインする団体と間違われました。理事会の合意により、インスティテュート・フォー・ヒューマン・センタード・デザイン(IHCD)という名称を選びました。分かりやすい言葉を使用したいと考えたからです。我々はユニヴァーサルデザインを、‘すべての人を念頭におき、すべてのものを人間中心にデザインすること’と短く定義しています。

ではなぜ、ユニヴァーサルデザイン(以下“UD”)という言葉を使用しなかったのか?それは、米国の多くの人たちがUD は基本的に‘バリアフリー’や‘アクセシブル’と同じ、または置き替え可能と考えるようになったことを懸念したからです。ここで非常に重要なことは、UDというのは規定やわずかな条件を適応させることに終始する以上に、より大きくそしてダイナミックなデザインの考え方だということをはっきり伝えることです。米国において一般の人たちを啓発したり、デザイナーと顧客や企業を変えさせることは依然として前途遼遠です。人間の経験を転換させるにはデザインがちからを持つという大きな考えに人々を引き込みたい、そして簡単な言葉でそれを体現したいと考えました。私たちはUD、インクルーシヴデザイン、デザインフォーオールといった一般的な言葉も日々の業務で使用しています。


思索を分かち合う

1.UD原則に関するもう一つの考え方

我々を含む5つの団体に所属するデザイナーやデザイン教育者たちがグループとなり、米国で 1997年にUD原則の原型となるものを作りました。これら原則は、ユニヴァーサルデザインセンター(ノースカロライナ州立大学)が著作権を保有しています。原則は数や細目に変動があるものの、現在国際的に用いられています。

UD原則について少々異なった考え方を述べてみたいと思います。この考えでは「公平な利用」が何よりも重要であり、機能原則とプロセス原則の2種の原則を統合します。これはミシガン州立ウェイン大学のロバート・アーランドソン教授(Robert F. Erlandson)の研究によるものです。彼の専攻は工学技術と商品開発ですが、都市環境や情報通信技術(ICT)分野に着想しています。「プロセス」原則はよく知られた7原則と殆ど違いませんが、以下3つの広範な機能的制約の分
類を追加しています。すなわち、人間工学(運動制限・機敏さの制限・体力的制限)、知覚(視覚、聴覚、発声、触覚など)、認知的配慮(学習能力差、知的制限、精神状態、脳損傷などの脳の機能的な問題、および単なる記憶障害から高齢化に伴う認知症上の問題)です。

<参考>IAUD 情報交流センター訳
1.公平であること 全てを包括し超越する原則 人の機能に関する原則 2.人間工学的配慮がされていること 3.知覚できること 4.認知的配慮がされていること プロセスに関する原則 5.柔軟性があること 6.エラーに対し許容性があること 7.効果的であること 8.予測しやすく変動のないこと

アーランドソン教授が唱える原則では、UDが持つ2つの弱点を指摘しています。既にお話いたしましたように、UDはバリアフリーやアクセシブルデザインと同義と考える人が多いということです。UDは主にバリアフリーと同じ条件- 動作に制限をもつ人たち、特に車いすユーザーや全盲者- に重点を置いていると考えている人たちが大勢います。次に、あまりにも多くの期待を持たせてしまうことです。それが広範囲になりすぎると、デザイン戦略というより概念的な色彩が強くなり無意味になってしまう点です。アーランドソン教授は人間の機能を大まかに3つに分類していますが、大半の条件がこれで分類できます。バリアフリーやアクセシビリティが土台となって、その上にUDが築かれると理解すると分かりやすくなります。そうすることでバリアフリー、アクセシビリティとUDの違いを明確に認識しやすくなります。このことは、デザインによる解決策のレパートリーを広げるための研究や革新を、今まで以上に進める必要があるという事実を指摘するものだと思います。


2.UDのためのグローバルな政策支援

当然のことながら、人口動態の変化と社会的公平性の面でデザインが果たすべき役割が拡大したことに伴い、個々人の経験や社会参加に果たすデザインの役割について、一連の国際的な政策が生み出されてきました。これらの政策は世界的な交流支援に役立っています。

WHOのICF

世界保健機構(WHO)は2001年、機能、障害および健康に関する国際的分類:国際生活機能分類(WHO/ICF)の中で障害について再定義し、デザイナーへ未曾有の呼びかけをしました。障害はおおむね変動のない限られた小集団を特定する方法として考えられていましたが、現在WHO/ICFでは、能力差、特に加齢によるものは人間の経験の正常な部分であると述べています。WHO/ICFは、障害を状況により変化すると定めています。時間によって大きく変化し、環境にも左右されます。我々は皆、個人と肉体的、通信、情報、社会的および政策的環境との相互関係に基づいて多かれ少なかれ障害者です。WHO/ICFは、バリアを取り除く以上の役目としてファシリテーターを特定し、すべての人びとの経験を高めることを求めています。また、ファシリテーターを同定するための最も有望な方法として特にUDを挙げています。

マドリッド宣言と優先分野III

国連の第2回高齢者問題世界会議:マドリッド政治宣言と国際行動計画2002では、優先分野IIIとして活動可能かつ支援的な環境整備を掲げ、デザインの重要な役割について述べています。この優先分野の設定では、我々はすでにバリアの除去を超え、‘自立可能で支援的な’言語で表されるところに達していると想定しています。国連事務総長コフィ・アナン氏がオープニングにおいて、「我々の基本的な目的はあらゆる年齢のすべての人々に適した社会の構築である」と包括的なヴィジョンを述べています。

国連・障害者権利条約

UDに関するもうひとつの国際的な政策支援は、2008年の障害者人権条約です。これは国際人権規約に対する3番目の追加条文で、WHO/ICFをモデルにしています。条約の草案作成では、開発途上国の代表者達が5年間にわたり重要な役割を担いました。彼らの最大の希望として、全ての開発計画はすべての人に役立つようデザインされるべきということを最小限のアクセシビリティとして確保することがUDの課題として議論されました。今後何十年間かは開発途上国が大きく成長することを考えるとこれは重要な好機です。2009年5月19日時点では192の国連加盟国のうち139カ国がこれに署名しましたが、米国は署名していません。オバマ大統領は署名する意向と述べています。

パフォーマンス対策とグローバルな協力関係へのシフト

コンプライアンスに基づいた対策からパフォーマンスをベースとした対策への動きという、もうひとつの政策トレンドがあります。改革や進化が常に当然と考えられるテクノロジーは、パフォーマンスをベースとした成果対策を導いていきます。

また、ガイダンスは多国家間の協働により開発されるべきであるという認識への動きもあります。Worldwide Web ConsortiumのWeb Accessibility Initiative(W3C/WAI)は2008年12月新しい基準を発表し、ウェブコンテンツ(テキスト、画像、音声や映像など)とウェブアプリケーションの全てにわたってアクセシビリティ向上をめざしています。Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)2.0をより厳密に検証することはできますが、しかしウェブの開発者に今なお一層のフレキシビリティと革新への可能性を与えています。技術や教育を支援する教材と一体となり、WCAG2.0はより理解しやすく、また利用しやすくなります。高齢のユーザーのニーズに配慮することで多様なユーザーへ関心を拡げました。世界の何千人もの専門家が基準の開発に参加しました。
http://www.w3.org/2008/12/wcag20-pressrelease.html

W3C/WAIに加え米国アクセスボード(連邦政府機関)は、日本規格協会も参加して初めての世界諮問委員会を開催し、情報通信技術に関するガイダンス2000を更新・改訂しました。技術に境界はないという認識の下、委員会にはEU、カナダ、オーストラリアや日本からの国際メンバーが参加しました。最初のICT ガイドラインは視覚障害者、聴覚に障害がある人や難聴者に重点を置いていました。人々は2~3年でさらに多くのユーザーを支援する包括的ICT の将来性を認め始めています。
http://www.access-board.gov/sec508/update-index.htm

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