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特集:towards2010「デザインフォーオール/UD を本流に」

2010.07.11掲載

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「towards 2010」は第3回国際ユニヴァーサルデザイン会議2010 in はままつ」の開催に向け、海外の有識者の方から会議への期待や議論すべき課題などについて、IAUDニュースレターの巻頭特集として寄稿していただいたものです。

※このコンテンツはIAUD Newsletter vol.3 第4号(2010年7月号)に掲載されました。
原文(英語版)はこちらをご参照ください。


フランチェスク・アラガイ
デザインフォーオール財団代表


デザインフォーオール/ユニヴァーサルデザインのコンセプトは、世界中でますます支持を広げています。とは言え、今なお克服していかなければならない習慣や無知、誤った優先順位などが存在しています。達成すべき課題は明らかで、われわれはデザインフォーオールを「本流」にしていかなければなりません。

行政は一般に問題から逃避することはありません。ニーズを把握し、正しい方向に進むための法的枠組みを構築します。しかし、行政は定めたルールを確実に遂行するためのしくみは強化するものの、市民の反応や「継続的に改善するプロセス」の管理が依然として目に見えないために、こうした措置が期待される結果を達成することはありません。実際面において、デザインフォーオールを推進する力は基本的に次の2つの側面によります。ひとつは、意思決定者(政治家やビジネスマン)の、大抵は倫理的理由によるところの、自発的な個人的責務によるもの、そしてもうひとつは市民団体の圧力、具体的には障害者団体や人権擁護団体などです。

しかし、このようなやり方は、善意に基づくものではあれ、それだけでは十分とは言えないでしょう。社会として私たちが抱えている課題はきわめて重要です(将来はさらにその重要性を増すでしょう)。だからこそ、私たちは、努力を結集し、デザインフォーオール/ユニヴァーサルデザインの理念を実行する上で協力して困難を克服していかなければなりません。

そのためには、根本的な問題があります。デザインフォーオールがたとえ「立派に成し遂げられて」も、ユーザーによってそれが認識されないという問題、あるいはおそらく認識はされるけれども、すぐに利点としては評価されなくなり、当然のものとみなされて「内在化」され、「標準化」されてしまうという問題です。こうした事実はある程度までは当然なことですが、しかしデザインフォーオールに投資することの有益性を納得させるとなると、明らかな問題が生じます。「ユーザーの満足度の向上に役立たないことになぜ投資する必要があるのか」という問題です。(これが誤った論法であることは、これからの話でご理解いただけるでしょう。)

スペインの建築家Marquinaデザインのドレッシングボトルはデザインフォーオールの良い事例の一つ。ラッパ状の注ぎ口からこぼれたオイルが容器へ戻る。

こうした状況は、たとえば、公共交通のアクセシビリティの向上に投じられた投資に関して行われた調査結果に明らかです。調査では、ユーザーの満足度指数が一時的に向上するものの、すぐにそれ以前の評価に後戻りしてしまうことが確認されています。これはまた、コーヒーメーカーなど広く普及している製品にも該当することで、使い勝手のよさが重要な特質でありながら、ユーザーがそれを認識評価していることはほとんどありません(競争相手の商品を利用しその使い勝手の悪さを知って初めてよさがわかるという程度です)。あるいは、顧客が店内を歩き回って必要な商品を見つけやすいなど、店内の標識やアクセシビリティが重要なスーパーマーケットなども同様です。これらをはじめ他の多くの事例でも、ユーザーが彼らのニーズに対応するためになされた努力を認識していることはほとんど、あるいはまったくないでしょう。

そこで、とりわけ「消費財」分野におけるビジネスマーケティングの観点で見た場合「デザインフォーオール」または「ユニヴァーサルデザイン」が持つ意味合いは何か、という問題が出てきます。2009年に各種セクターの企業によって実施されたドイツの調査研究によると、これらの2つのコンセプトは「高齢」、「障害」、「リハビリテーション」などのコンセプトと心理的に結びついてしまうために、この2 つのコンセプトが一般消費者を対象とするマーケティングキャンペーンに使用されることはないという結果となっています。若者も高齢者も、そして障害者も含め、誰であろうと「格好がよく」、「トレンディ」で、「若々しい」商品を好むことに変わりありません(ただし、インタビューしたビジネスマンたちは、デザインフォーオールの理念を知り、適用することは有益な戦略的取り組みだと認めていました)。

第三世界でのアクセシビリティ欠如を想起し、アクセシビリティとデザインフォーオールを統合することが大切。

もうひとつの問題は、地球レベルにおける文化や経済的な違いを原因とするものです。社会的に標準とはみなされない人々の権利は、世界中どこでも尊重されることはなく(彼らは社会生活から排除されることもあります)、そうしたところでなすべき仕事はきわめて基本的なものです。他の場合においては、デザインフォーオールの理念は、皆に理解されているものの、資金や資源の制約や不足から、数々の優先課題の中で一番後回しにされがちです。したがって、地球規模での努力が求められます。資源をより多く持つ者は持たざる者に与えることが必要です。

デザインフォーオール財団では、3つの可能な方法を通じて、これらの問題に果敢に取り組んでいます。

  1. その一つは、人権、誰もが平等な機会を与えられて積極的に社会に参加できる権利の尊重に重点を置いて、地球規模でデザインフォーオールの理念を普及することです。

  2. 「Flag for Towns and Cities for All」のシンボル。
    一方で、デザインフォーオールが追求する目的とさまざまな分野の意思決定者の目指す目的とが一致・整合するようなプロジェクトを計画・推進し、彼らの目的を達成する手段としてデザインフォーオールが活用されるようにすることです。こうしたプロジェクトの一例として、私たちは、すべての市民やビジターの生活の質を高めて明確な社会的・政治的・経済的効果をもたらすため環境整備に取り組むさまざまな都市を応援する「Flag for Towns and Cities for All(すべての人のための町や都市の旗)」というプロジェクトを開発しました。行政側のメリットは何でしょうか。このプロジェクトは、行政側の日常のアクションを市民にとって関わりの深い、目に見えるものにするよう手助けをし、知識ネットワークに参加して、市民からのフィードバックを活用し、投資に内在するリスクを軽減することを意図したものです。
    もうひとつは、起業分野での例で、H.U.M.B.L.E.S. メソッド(© Aragall 2008)というものを構築しました。これは、企業がそれぞれのプロセスや製品にデザインフォーオールの価値観を組み込み、社会的インパクトを高めるとともに、製品やサーヴィスのユーザーや顧客にとっての利益も増大させることのできる不可欠な手法です。加えて、イノベーションをもたらす新たな機会を生み出すツールともなり、また、企業の評判を高めて、新しいマーケットを開拓し、結果として経済効果を高めるなど、企業にとってさまざまな面で得るところの多い手法です。

  3. 最後になりますが、重要なこととして、「一から見直す」ことがこれまであまりなかった分野ですが、そうした関心を考え、私たちは、誰もが利用できるデザインフォーオール/ユニヴァーサルデザインに関する知識レポジトリを構築することを決めました。これは、コンセプト、経験、プロジェクト、団体、専門家、各種リサーチについて質の高い情報を提供し、単独で活動することの多いこの分野のさまざまな関係者の間に最大限の相乗効果を生み出すことを狙いとするものです。これには「オープン」であること、「多角的」であることが不可欠な条件となることを強調したいと思います。すなわち、あらゆる人々が参加してこそ、充実したものになるということです。

デザインフォーオール/ユニヴァーサルデザインにおいて「本流にすること」とは、地球規模での社会的ニーズに従って、皆で取り組み共に努力することです。行政、市民団体それぞれの役割がありますが、しかしこの役割は同様にその他の社会の構成員の手中にもあるものです。社会から取り残されたと感じる人がいない世界を実現するためには、私たちは同じ方向を目指してあらゆるレベルで努力し、有益な経験から学ぶことが必要です。

デザインフォーオール財団は、この目的に向けて懸命に取り組んでおり、目的達成のために世界中の組織間に強力な連携を構築することが不可欠であることを強調したいと思います。




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