多数世界の視点から見たインクルーシヴデザイン

ジム・S・サンデュー
ノーサンブリア大学名誉教授:英国
自らの経験を踏まえて、インクルーシヴデザインの歴史的経緯とその概念の発生と収束を概観する。さらに、インクルーシヴデザインに対する欧米のさまざまなアプローチを分析し、それらが発展途上国に及ぼしている具体的な影響を比較する。ユニヴァーサルデザインは貧困諸国にほとんど影響を及ぼしていないというのが、ジム・サンデューの論旨である。すなわち、ユニヴァーサルデザインが最も重点的に取り組んでいるのは、高識字率と技術に関するある程度の理解とを前提とした先進諸国におけるデザイン上の問題であり、そうした前提条件は貧困諸国の大半のポテンシャルユーザーには欠けているからである。全世界を包含することを意図したはずの「ユニヴァーサルデザイン」の主張の重大な限界がここにある。
サンデューは、ユニヴァーサルデザインの成果を主張する声の裏には、国家において絶大な力を持つ広報の力があると主張する。実際には、ユニヴァーサルデザインの主唱者の大半は多数世界(マジョリティの世界)についてほとんど理解も経験もないため、実に狭い範囲を網羅しているにすぎない。
講演では、深刻な貧困と非識字の問題だけでなく、発展のパラドックスも抱えるインドに例を絞って考えてみる。これらの特質は、多数世界に典型的なものだ。ここで指摘される対比や矛盾は、インクルーシヴデザインを活用して非識字、貧困、飢餓、失業、家のない人のための保護施設などの削減を図る上での大きな障害を物語るものである。