今からちょうど30年前、ワコールはアメリカで見つけた、あるブラジャーの製造に着手しました。それは、乳がんでバストを切除された女性のための、専用のパッド入りブラ。これを「リマンマ・ブラジャー」と名付けて提供してきました。(リマンマとは「乳房をふたたび」の意)

これまで16万人のお客様と接してきたリマンマ事業課は、他の営業とちょっと違います。いくつになっても「キレイになりたい」という女心はどなたも変わりはないでしょう。でも、リマンマのお客様は、その動機が違います。接客する時「説明も言葉づかいも丁寧。でも気持ちをわかってくれない」といったクレームに悩みながらも、お客様の心を考え続けてきました。ですから、宣伝を控えています。
乳房を手術されたお客様の心は繊細です。家族にも隠して、自分の内に秘めている方もおられますし、「必要以上に商品を露出しないで」という声もいただきます。ですから百貨店など一般の店頭で扱わず、病院にパンフレットを置かせていただきます。
一度ワコールで採寸されると、後は製品を通販でお届けすることができます。その際、パッケージを見ても中身がわからないように、包装や発送用の箱に配慮しています。また新製品のDMが頻繁に届くと、そのたびにバストを失ったことを思い出すという方もおられますから、その発送頻度にも細心の注意を払います。
ワコールで試着するフィッティングルームは、隣に声が洩れてはいないかと気になります。だから室内には穏やかな音楽が流れています。時には鏡もさりげなく隠したり、カーテンのわずかな隙間をそっと閉めるという気づかいも大切にしています。試着のあいだ、下着以外のアイテムの話も出てきます。部屋にはネットワークで集めた他社のパンフレットも取揃えています。そしてリマンマルームに年間1万人いらっしゃるお客様の、帰りぎわの「ありがとう」の言葉が、販売員の心に染みます。「お客様があって商品がある」。リマンマ製品はその典型です。
UDは、お客様の心に伝わる「かたちづくり」でもありますが、さらに、買っていただく時の「販売のこころ」も私たちのブランドを支えています。それもUD思想の要素だと思います。いつか乳がんが撲滅され、「リマンマ・ブラジャー」の必要性もなくなることが、私たちの願いです。そのために、今ワコールは乳がん早期発見啓発を目的とした「ピンクリボン活動」にも取組んでいます。
<掲載日:2004年12月03日>